操作方法(日本語)

XLSTAT によるウィルコクソン符号順位検定:正規分布に従わない対応のある2グループを比較する

目次

ウィルコクソン符号順位検定とは?

ウィルコクソン符号順位検定(Wilcoxon Signed-Rank Test)は、同じ対象(人や物)に対して2つの異なる条件・時点で測定されたデータを比較するための手法です。例えば「看護師向けの疼痛管理研修を実施する前後で、患者への鎮痛剤投与の適切性スコアが改善したか」や「同じ食品審査員が2種類のソースの塩味強度を評価したとき、差があるか」といった場面で用いられます。

このような「対応のあるデータ(同一対象の2条件比較)」には、通常「対応のあるt検定」が使われます。しかし t 検定はデータが正規分布に従うことを前提としており、サンプルサイズが小さかったり、極端な外れ値が存在する場合や、5段階評価スコアのようなデータ(疑似間隔尺度)を扱う場合には正しく判定できない ことがあります。そこで登場するのが、正規分布を仮定しないノンパラメトリック検定であるウィルコクソン符号順位検定です。

ウィルコクソン符号順位検定では、ペアの差が「増えたか減ったか(方向)」だけでなく、「どれだけ変わったか(大きさの順位)」も考慮して分析を行います。 この点が同じく対応のあるデータに使える通常の符号検定との大きな違いです。

対応のあるt検定・符号検定との違い

対応のある2グループのデータを比較したいとき、データの性質に応じて以下の3つの検定が主な候補になります。

比較項目 対応のあるt検定 符号検定 ウィルコクソン符号順位検定
種類 パラメトリック ノンパラメトリック ノンパラメトリック
正規分布 必要 不要 不要
使用する情報 差の平均値 差の方向(+か-か)のみ 差の方向+差の大きさ(順位)※注
適したデータの尺度 間隔・比率尺度 順序尺度でも可
(純粋な上下関係のみ)
間隔・比率尺度、または差の大きさを評価できる順序尺度(5段階評価など)

※注釈:ウィルコクソン検定はどうやって「差の大きさ」を考慮している?


ウィルコクソンの符号順位検定では、生の差の数値をそのまま計算に使うわけではありません。まず、対応する2グループのデータの差の絶対値(+-を除いた数値の大きさ)を小さい順にランキング(順位化)し、そこにもとの変化の向き(+・-の符号)を付け直した『符号つき順位(Signed-Rank)』を作成して計算します。これにより、万が一「1人だけ極端な点数を取った」というような異常な外れ値があっても、ただの「1位(または最下位)」という順位ナンバーに変換されるため、計算結果を壊すことなく正確に分析をすることができます。

実務における使い分けの目安:

  • 対応のある t 検定:
    身長、時間、金額などの連続的な数値データで、データが正規分布に従っている場合(またはサンプルサイズnが十分大きい場合)。

  • ウィルコクソン符号順位検定:
    正規分布に従わない(または外れ値がある)数値データや、評価スコアのように目盛りがある程度均等で「差の大きさ」を比較できるデータの場合。

  • 符号検定:
    「改善・変化なし・悪化」のように、大まかな順序(方向)しか分からず、差の大きさを定義できないデータの場合。

ウィルコクソン符号順位検定の計算過程(理論説明)

XLSTAT を使えば簡単に実行できますが、裏側でどのような計算が行われているかを知っておくと、結果の理解が深まります。ここでは簡単な事例で計算の流れを見てみましょう。

事例:緩和ケア病棟での疼痛管理介入の効果

ある病棟で、看護師による疼痛評価・記録の質を向上させるための研修を実施しました。研修前後で、同じ5人の看護師それぞれが担当する患者の疼痛コントロール評価スコア(10点満点、高いほど良い)を記録しました。「研修後にスコアが有意に向上したか?」を確認します。

ステップ1:各ペアの差を計算し、差が 0 のペアを除外する

各看護師について、差 d = 研修後− 研修前 を計算します。

差が 0 の看護師2は除外されます。有効なペア数は n = 4 です。

ステップ2:差の絶対値に順位をつける

差の絶対値を小さい順に並べて、順位をつけます。同じ値がある場合は順位の平均を割り当てます(「タイ処理」)。

ステップ3:符号をつけて正の順位和(W⁺)を求める

差が正(+)のペアの順位をすべて合計します。

  • W⁺(正の順位和)= 1 + 2.5 + 2.5 + 4 = 10
  • W⁻(負の順位和)= 0(今回は全員スコアが増加)

検定統計量 W は W⁺(正の順位和)= 10 となります。

ステップ4:検定表の棄却限界値(またはp値)と比較して判定する

統計量 W を求めたあとの判定方法は、データの状況によって以下の3パターンに分かれます。

  • n ≤ 25 かつタイ・差=0 がない場合:
    専用の検定表(ウィルコクソン符号順位検定表)から n と有意水準に対応する棄却限界値を読み取り、「W(正・負の順位和のうち小さい方)≤ 棄却限界値」であれば帰無仮説を棄却します。

  • n ≤ 25 でもタイや差=0 があるとき:
    検定表が使えないため、正規近似により p 値を算出し、p 値 < 有意水準(0.05)であれば帰無仮説を棄却します。

  • n > 25 の場合:
    W を標準正規分布(Z 分布)に変換して p 値を算出し、同様に判定します。

今回の事例(n = 4)では、W = 10 は取り得る最大値(全員が正の場合 = 1+2+3+4 = 10)と一致しており、全員のスコアが増加したことを示します。しかし検定表を参照すると、n = 4 では有意水準 5%(両側検定)の棄却限界値が設定されておらず、統計的有意差があるとは判定されません。このように、サンプルサイズが小さいときは「全員が改善していても有意差なし」という結果になり得ます。これは「差がなかった」のではなく「データが少なすぎて判断できなかった」ということです。十分なサンプルサイズのデータで XLSTAT を使うと、より確実な判断が可能になります。

ウィルコクソン符号順位検定を実行するためのデータセット

計算のイメージがつかめたところで、次はXLSTAT を使って、もっとサンプル数の多いデータを分析してみましょう。

事例:降圧薬服用前後の収縮期血圧の変化

今回は、ある医療機関で、高血圧患者20名に対して新しい降圧薬の投与を開始し、服用前と4週間後の収縮期血圧(mmHg)を測定したという架空のデータを使用し、「降圧薬の服用によって収縮期血圧が有意に低下したか?」を検定します。

血圧データは一般的に正規分布に近い場合もありますが、小規模臨床研究(n = 20)では正規性が保証されないことも多く、また患者ごとのばらつきが大きいことがあります。同一患者の前後比較という「対応のあるデータ」であるため、ウィルコクソン符号順位検定が適切な選択肢となります。

サンプルデータのダウンロードはこちらから

dataset-for-wilcoxon-signed-rank-test.xlsm

XLSTAT でウィルコクソン符号順位検定を実行する手順

  1. XLSTAT を起動し、メニューバーから [仮説を検定] > [ノンパラメトリック検定] > [2標本の比較(Wilcoxon、Mann-Whitney、…)] を選択します。

  2. ダイアログ画面が開いたら、右側のチェックボックスで [Wilcoxon符号付順位検定] にチェックを入れ、[データ形式] で [対応のある標本] を選択します。あわせて [符号検定] にもチェックを入れると、両方の結果を同時に確認できます。なお、[Mann-Whitney検定] は独立した2群の比較用のため、今回はチェック不要です。

  3. 次に、Excel シート上でデータ範囲を選択します。

    • [標本 1]:服用前の血圧データ列(B列)を選択
    • [標本 2]:4週後の血圧データ列(C列)を選択
  4. 先頭行に列名が含まれている場合は [列ラベル] にもチェックを入れます。

  5. [オプション] タブに切り替え、以下のように設定します。

    • [対立仮説]:使用する検定の種類を選択します。

      • [標本1 - 標本2 ≠ D](両側検定):
        服用前後でスコアに差があるかを調べる場合(今回はこちらを選択)

      • [標本1 - 標本2 < D](左側検定):
        「血圧が有意に下がったか」のように、変化の方向を指定する場合

      • [標本1 - 標本2 > D](右側検定):
        「血圧が有意に上がったか」を調べる場合

    • [有意水準(%)]:
      デフォルトの「5(%)」のままにし、p 値の計算方法を選択します。

      • [漸近的なp値]:
        正規近似を使用。サンプルサイズが大きいときに適しています。

      • [正確なp値]:
        正確な分布に基づいてp値を計算します。サンプルサイズが小さい場合(目安として n ≤ 25 程度)により正確なp値が得られます。ただし、「複数のペアで差の絶対値が同じ(タイ)」または「服用前後で値が変わらないペア(差=0)」がデータに含まれる場合は使用できず、自動的に漸近的なp値に切り替わります。今回は n = 20 のため、こちらを選択します。

      • [モンテカルロ法]:
        ランダムリサンプリングで p 値を近似します。正確法の計算が重くなるときに代替として使えます。

  6. [出力] タブに切り替え、以下のように設定します。

  7. [チャート] タブに切り替え、以下のように設定します。

  8. [OK] ボタンをクリックすると、計算が始まり、結果が別シート(ノンパラ検定(2 標本))に出力されます。

ウィルコクソン符号順位検定の結果の解釈

分析を実行すると、多くの表やグラフが出力されますが、このページでは主要な出力結果を順に解説します。


記述統計

最初に、服用前・4週後それぞれのサンプルに関する記述統計(観測数、平均値、標準偏差、中央値など)が表示されます。まずここで「データに欠損がないか」「服用前と服用後でどの程度値が変化しているか」を大まかに把握しましょう。

今回のデータでは、「服用前」の平均が 159.75 mmHg、「4週後」が 149.45 mmHg と、平均で約 10.3 mmHg 低下しています。また、服用前の標準偏差(9.26)より4週後の標準偏差(6.17)が小さくなっており、血圧のばらつき自体も改善傾向にあることが読み取れます。ただし、この段階ではまだ「偶然このような差が出ただけ」の可能性もあるため、次の検定結果で統計的に判断します。


符号検定の結果

符号検定の結果テーブルでは、「差がプラスのペア数(N+:血圧が下がった患者数)」と、対応する p 値が表示されます。

今回の結果では、差が 0 の患者(P12)が検定から除外され、有効ペア数は n = 19 となります。その19名全員が血圧低下(N+ = 19)しており、p 値(両側)は 0.0000038(< 0.0001)と有意水準 0.05 を大きく下回っています。したがって「服用前後で血圧に差がない」という帰無仮説を棄却でき、統計的に有意な変化があったと判断できます。


ウィルコクソン符号順位検定の結果

ウィルコクソン符号順位検定では、検定統計量 V(正の差の順位和)と対応するp 値が表示されます。

今回の結果では、V = 190、p 値(両側)= 0.00013 となりました。有意水準 0.05 を大きく下回っているため、帰無仮説(服用前後で収縮期血圧に差はない)を棄却し、「降圧薬の服用後に収縮期血圧が有意に低下した」と結論づけることができます。結果の表で確認すべきポイントは以下の通りです。

  • V(統計量):
    正の差の順位和。今回は V = 190(n = 19 のとき取り得る最大値は 190 = 19×20÷2)で、全員が血圧低下したことと一致。

  • p 値(両側):
    この値が 0.05 未満であれば「有意差あり」(今回は 0.00013)。

  • 近似使用の注記:
    タイ(差が 0 のペア)がある場合、正確なp値の代わりに正規近似が自動適用されます。


箱ひげ図

チャートタブで箱ひげ図を選択して実行した場合、服用前・4週後それぞれのデータ分布を示す箱ひげ図が出力されます。

  • 箱(四分位範囲) の位置:4週後の箱全体が下方向にシフトしているか確認します。
  • 中央値(箱の中の線):服用前より服用後の中央値が下がっているかを確認します。
  • ひげ(データの広がり):ばらつきの変化がないかも確認します。

今回のデータでは、服用後の箱全体が服用前よりも明確に低い位置にあることが視覚的に確認できます。検定結果(統計的有意差あり)と箱ひげ図の視覚的な確認を組み合わせることで、「降圧薬は統計的に有意に収縮期血圧を下げた」と解釈できます。

まとめ

ウィルコクソン符号順位検定は、同一対象に対する2条件の測定値を比較する際に使えるノンパラメトリック検定です。対応のある t 検定の前提(正規分布)を満たせない場面や、サンプルサイズが小さい場合でも信頼性の高い結果が得られる点が強みです。差の「方向」だけを使う符号検定よりも差の「大きさ」も考慮するため、統計的検出力が高く、医学・看護学における前後比較研究や、官能評価での2条件比較に広く活用されています。XLSTAT を使えば、使い慣れた Excel 上で、検定の実行から箱ひげ図による視覚的確認まで、煩雑な計算なしに一貫して行うことができます。

参考文献

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