XLSTAT によるプリファレンスマッピング
記事執筆 小田井 英陽
(一般社団法人日本官能評価学会理事、東京バイオテクノロジー専門学校講師)
- プリファレンスマッピング(Preference Mapping)とは?
- XLSTAT によるプリファレンスマッピング作成
- プリファレンスマッピングを実行するためのデータセット
- プリファレンスマッピングの実行手順
- プリファレンス・マッピングの解釈
- 補足:プリファレンスマップ作製のための4つの推定モデルについて
- まとめ
- 参考文献
- XLSTAT の無料トライアル
プリファレンスマッピング(Preference Mapping)とは?
プリファレンスマップとは、複数の製品やサービスに対する消費者の嗜好度をプロダクトマップ(2次元散布図)上に表示した図の総称になります。
例えば、新商品開発の際に、自社製品と他社製品の官能評価を行い、プロダクトマップを作ることにより、それぞれの製品特徴が把握できます。また、これらの製品の嗜好調査の結果と合わせて解析することにより、製品特徴と嗜好点の関係が示唆されます。この時に、プロダクトマップ(2次元散布図)上に嗜好度を表示するプリファレンスマップを作成することで、わかりやすく可視化することができます。また、実際に嗜好評価したサンプルのみならず、嗜好評価していないサンプル品の嗜好度を推定することができることから新商品開発の方向性についても示唆が得られます。
なお、プリファレンスマップには使用するデータの違いで外的プリファレンスマップ(XLSTAT ではプリファレンス・マッピング)と内的プリファレンスマッップ(XLSTAT では内的プリファレンス・マッピング)の2種類に分類されますが、このチュートリアルでは外的プリファレンスマップの作成方法について解説します。
XLSTAT によるプリファレンスマッピング作成
プリファレンスマッピングの作成は、Standard、Advancedのライセンスで実施できます。この解説では、下記のXLSTAT のチュートリアルを参考にしています。
- Preference Mapping (PREFMAP) | Statistical Software for Excel
- Preference Mapping in Excel tutorial | XLSTAT Help Center
また、サンプルデータはこちらからダウンロードできます。
demoPREFMAP_JP.zipプリファレンスマッピングを実行するためのデータセット
今回使用するデータセットは下記2種類から構成されています。
Consumers' pref(消費者による評価データ)
サンプルデータのシート「Consumers' pref」は10種類の市販ポテトチップスに対する99人の消費者の嗜好点データです。(ind:評価者No、Crisp1~10:市販ポテトチップス、嗜好点は、嫌い0~好き29の30段階)データはSchlich and McEwan (1992) の論文から取得されています。
Experts(専門家による評価データ)
サンプルデータのシート「Experts」は8人の専門家が10種類のポテトチップスサンプルに対して、4つのテクスチャ属性(食感)と7つのフレーバー属性(風味)について評価した平均評価点の表です。これらのデータは、Schlich and McEwan(1992)の論文に基づいて、英語版チュートリアルの著者が教育目的でシミュレートしたものです。
プリファレンスマッピングの実行手順
Step 1:消費者のグループ化
一般的に、消費者の嗜好は一様ではなく、いくつかのグループに分けた方が解釈しやすくなるため、まず、嗜好点によって、グループ化することにします。今回行ったクラスター分析(凝集型階層クラスタリング (AHC))については下記日本語チュートリアルがありますので、簡単に手順を紹介します。
統計解析ソフトXLSTAT による階層型クラスター分析:類似度に基づいて消費者データをグループ分けする
AHC のダイアログボックスでは下記のように入力します。
図1 AHC のダイアログボックス 一般タブ
図2 AHC のダイアログボックス オプションタブ
オプションで打ち切りチェックをいれることにより、自動で最適なクラスターが選択されます。今回の結果では「指標の推移」の表により、シルエット指標ではクラスター数は9 が選択されたことがわかり、デンドログラムで色分けされています。
表1 AHC の結果・指標の推移
図3 AHC のデンドログラム
(英語版チュートリアルのように、オプション・打ち切りにチェックを入れない場合、水準棒グラフやデンドログラムでしかクラスター数を判断できません。)
次のステップの為に、結果に含まれるクラスタ・セントロイドの表を別シートにコピーペーストします。その際、貼り付けオプションで行と列を入れ替えてください。(デモデータでは、シート「Clusters' Pref」に貼り付けられています。)
Step 2:PREFMAP メソッドを使用したプリファレンス・マップの作成
このステップでは、専門家によるスコアと、9つのクラスターの標準化された評価によって要約された消費者による評価を使用して、PREFMAPメソッドを適用します。
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プリファレンス・マッピングを実行するため、XLSTAT のSensory 分析メニューから [選好データ] > [プリファレンス・マッピング(PREFMAP)] を選択します。
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ダイアログボックスが表示されるので、[一般] タブで下記項目を選択します
図5 プリファレンス・マッピングのダイアログ・ボックス 一般タブ
- [Y / 選好データ] には、9つのクラスターの評価が対応しています。
- [X / コンフィグ] は、専門家によって与えられたスコアに対応します。
- [事前変換] オプションを使用すると、生データに対して直接PCAを実行できます。ここではピアソン法(ピアソン相関係数に対応する相関行列を用いる方法)を選択しています。
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[オプションタブ] に切り替え、下記項目を選択します。
図6 プリファレンス・マッピングのダイアログ・ボックス オプションタブ
- [モデル] では4つのオプションから最適なモデルを選択できます。今回は「二次」を選択しています。4つのモデルについては、後述の補足を確認してください。
- [最良モデルの発見] にチェックを入れ、棄却条件を [F-ratio]、有意水準(%)を 10 に設定にすると、作成したモデルで p値が 0.1 未満の F比をもたらさない場合は棄却し、各クラスターごとに最良のモデルが何かを表示します。
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[チャート] タブに切り替え、下記項目を選択します。
[ベクトルの長さ] の係数を選択することで、プリファレンスマップ上のベクトルの長さを決定します。図7 プリファレンス・マッピングのダイアログ・ボックス チャートタブ
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[OK] をクリックすると計算が始まり、結果が別シート(PREFMAP)に出力されます。
プリファレンス・マッピングの解釈
結果には、上から、記述統計、相関係数行列、主成分析が表示されます。
主成分分析の結果の見方については、下記の日本語チュートリアルに詳しく書かれていますので、ここではバイプロット図の結果だけ確認します。
統計解析ソフトXLSTAT による主成分分析:アメリカ51州の人口変動から地域別の特徴と傾向を探る
バイプロット図を見ることで、それぞれの製品の類似性や特徴を知ることができます。例えばCrisp 2 とCrisp 6 は食感がよく似ていて、Melting(溶けやすさ)が特徴的であること、Crisp 3 とCrisp 4 は香味がよく似ていて、Earthy(土っぽさ)が特徴的であることなどがわかります。
図8 主成分分析のバイプロット図
次にプリファレンス・マッピング(PREFMAP) の各結果が表示されます。
モデル選択の表を見ると、クラスター1 は、二次モデルが、クラスター2 は円形モデルが、クラスター3~9 はベクトルモデルが最適だと選択されています。また、クラスター1 のポイント・タイプには鞍点が、クラスター2 のポイント・タイプには反理想点があることがわかります。F1, F2は鞍点/反理想点の主成分のスコアプロット図における座標の位置を示しています。
※各モデルの詳細は補足をご参照ください。
表2 プリファレンス・マッピング(PREFMAP) モデル選択
続いて、分散分析表を見ると、モデルはクラスター2、3、4、6でのみ有意であることがわかります。
表3 プリファレンス・マッピング(PREFMAP) 分散分析
モデル係数を用いて、各クラスターの各製品の予測嗜好点(標準化された値)とそれを0 から1 の値に変換した予測嗜好点が、それぞれ「モデル予測」、「0から1の選好スコア」の表に表示されます。さらに、「選好スコアの順位」「選好スコアで並べ替えられた製品」の表が示されます。これらを見ることにより、各クラスターで好みの製品が違うことがわかります。
また、予測された嗜好点の平均以上の審査員(消費者)の割合が、「各オブジェクトでの満足した審査員のパーセンテージ」の表に示され、この後の等高線図に利用されます。
プリファレンスマップ、等高線プロット、及びPREFMAP& 等高線プロットで各製品と各クラスターと嗜好点の関係が可視化され、表よりもさらに理解しやすくなっています。
図11 PREFMAP& 等高線プロット
例えば、Crisp 8 や10 は、満足度が60〜80% を示す等高線エリア内に位置しており、これは多くの消費者に好まれていることを示唆しています。一方、Crisp3、4は満足度が20〜40%のエリアにあり、あまり好まれていないことがわかります。また、座標軸上の製品と消費者クラスターの位置関係を分析することで、消費者の嗜好の傾向を把握できます。具体的には、クラスター4、5、6、7 は互いに近い位置にあることから、嗜好の傾向が類似していると解釈できます。一方で、これらのクラスターとクラスター1、2、9 は離れた位置にあり、嗜好の傾向が異なっていることがわかります。
また、等高線とPCA を重ねた図では、嗜好と製品及び官能評価特性との関係が理解しやすくなります。土っぽくて塩味が弱いCrips 4 は嗜好点が低く、逆に、硬くて塩味もあるCrisp 8 は多くの消費者に好まれています。
図12 等高線プロット(PCA)
なお、等高線においては、理想点は(+)、反理想点は(-)、鞍点は(o)で表示されます。
プリファレンス・マッピング(PREFMAP)では理想点の予測(表:潜在理想点)及び理想点が存在する範囲(表:承認ゾーン)が計算され、グラフ化されます。これにより、理想の風味特性を予測することができ、商品開発の参考になると期待されます。
図13 承認ゾーンと潜在理想点
補足:プリファレンスマップ作製のための4つの推定モデルについて
プリファレンス・マッピング(PREFMAP)では下記の4つの推定モデルが用意されています。
1. Vector model(ベクトルモデル)
最も単純なモデルで、嗜好がマップ上の特定の方向に沿って線形的に(単調に)増加または減少すると仮定します。つまり、ある特徴が強ければ強いほど好まれる(または嫌われる)という関係を示します。平面モデルとも呼ばれます。
2. Circular model(円形モデル)
消費者がある理想的な製品(理想点)を持っており、その理想点から離れるほど嗜好度が下がると仮定します。理想点を中心とした同心円状に嗜好度が分布するとモデル化します。(理想点ではなく反理想点の場合もあります)
3. Elliptical model(楕円モデル)
円形モデルと同様に理想点が存在しますが、嗜好度の下がり方が方向によって異なると仮定します。理想点を中心とした楕円形の等高線で嗜好度をモデル化します。円形モデルより柔軟な表現が可能です。(理想点ではなく反理想点の場合もあります)
4. Quadratic model(二次モデル)
最も複雑で柔軟なモデルです。理想点だけでなく、最小点(最も嫌われる点)や鞍点(ある方向には嗜好度が高まるが、別の方向には低くなる点)も表現できます。製品特性間の交互作用も考慮できます。
図 4つの推定モデルのイメージ図
まとめ
専門家の評価結果を用いて主成分分析を行うことにより、各製品のプロダクトマップが得られました。さらに、消費者の嗜好データをクラスター解析した結果を用いてプリファレンスマップを作成することにより、製品の官能特性データと消費者の嗜好データが統合され、両者の関係性を視覚的に表現し理解することができました。
これらの分析を通じて、市場機会の探索と製品ポジショニング、ターゲット顧客の明確化、製品コンセプトの具体化と目標品質設定、試作品の評価と絞り込み、嗜好に影響する重要特性の特定など、多岐にわたる活用が期待できます。
記事執筆 小田井 英陽
(一般社団法人日本官能評価学会理事、東京バイオテクノロジー専門学校講師)
参考文献
*1
テイストテクノロジー合同会社 (2018) 「プレファランスマップ入門テキスト」発行:テイストテクノロジー合同会社
プリファレンスマップ入門テキスト|テイストテクノロジー合同会社
*2
多田薫弘「官能評価に使える統計解析ツール XLSTAT編―ソフト提供の立場から―
2022, Vol. 26, No. 2, 95–98 Japanese Journal of Sensory Evaluation
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsse/26/2/26_260208/_pdf/-char/en
XLSTAT の無料トライアル
トライアルでは、最上位パッケージ XLSTAT Advanced に加え、3D Plot と LatentClass のオプションもご利用いただけます。本記事で紹介したプリファレンスマッピングはStandtard とAdvanced ライセンスでご利用いただけます。
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