XLSTAT によるTDS 分析:感覚の時間的変化を捉えよう
記事監修:一般社団法人学術・教育総合支援機構 川﨑 洋平
一般社団法人学術・教育総合支援機構公式HP:https://iaae.jp/
TDS 分析とは?
Temporal Dominance of Sensations (TDS) 分析は、製品の官能評価において、時間経過とともに評価者が感じる主要な感覚を明らかにする統計手法です。従来の官能評価法とは異なり、TDS 分析では、評価者が複数回の評価を通して、その時点で最も強く感じる感覚を選択することで、感覚の変化をダイナミックに捉えることができます。これにより、消費者が製品を使用する際のリアルタイムな感覚の変化を詳細に把握することができます。TDS 分析は、食品、飲料、化粧品など様々な分野における製品開発に活用されています。この手法により、製品の感覚プロファイルを精密に把握し、改善点を見つけることが可能になります。
TDS 分析を実行するためのデータセット
このページでは、架空のデータセットを用いて、TDS 分析を XLSTAT で実行する方法を説明します。データセットは、4 つの製品を 25 人の評価者が 8 つの属性について評価したものです。データは、評価者が製品を評価する際に、その時点で最も強く感じた感覚属性を記録しています。各評価の開始と終了は、それぞれ開始属性(START)と停止属性(STOP)によって判断されます。
サンプルデータのダウンロードはこちらから
Data_TDS_EN.xlsTDS 分析の操作手順
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XLSTAT を起動し、[Sensory] > [時間データ分析] > [経時的優位感覚(TDS)] を選択します
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ダイアログボックスが表示されるので、下記項目を指定します
- 形式:[誘出] を選択します
- TDS データ:記録時間の列(D 列)を選択します
- 審査員:評価者の列(A 列)を選択します
- 製品:製品名の列(B 列)を選択します
- 属性:感覚属性名の列(C 列)を選択します
- 開始属性: 評価開始を示す属性を選択します。今回の事例では”START” を入力
- 停止属性:評価終了を示す属性を選択します。今回の事例では”STOP” を入力
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[オプション] タブで以下の設定を行います。
- 時間標準化:
適用したい標準化のタイプを選択します。今回の事例では、すべてのテストが同じ瞬間に終了するように時間をずらす「右」を適用します。 - 優位:
チャンスレベル(各属性が等確率で選択される場合の比率)を超えて適用したい有意水準を選択します。チャンスレベルは属性数の逆数として定義されます。今回の事例では属性数が8個なのでチャンスレベルは、1/8 = 0.125 になります1。
- 時間標準化:
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[チャート] タブで、下記画面のように設定します
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[OK] をクリックすると計算が始まり、結果が別シート(TDS)に出力されます。
TDS 分析の出力結果の解釈
TDS 分析を実行すると、以下の出力結果が得られます。
製品と属性ごとの優位率
各製品における各属性が強く感じられた割合(dominance rate)を時間経過とともに表した表です。標準化を選択したので、時間スケールは100列にわたって再標本化されています。
平滑化TDS曲線
このグラフは、各製品における時間経過とともに感じる属性を示した TDS 曲線です。曲線が統計的に有意なレベルを超えている部分は、その属性が他の属性よりも強く感じられていることを意味します。TDS 曲線により、製品の主要な感覚の変化を視覚的に把握できます。
製品P1 の場合、前半は”Salty” 属性が強く、後半は”Acid” 属性が強くなっています。
TDS 曲線のグラフには2本のラインが引かれます。1本目のラインは"確率限界(chance limit)" と呼ばれ、偶然に得られる属性の優勢率(Dominance Rate)です。この値(P0)は、1/p (p は属性数)で算出されます(今回の事例では属性が8個なので、1/8 = 0.125)。2本目のラインは”有意度限界(significance limit)” であり、確率限界(P0)を有意に上回る最小の割合を示します2。故に、このラインを超えた部分は統計的に有意であり、その時点でその属性が他の属性よりも顕著に感じられていることを意味します。
帯域(はい/いいえ)
この帯グラフは、時間経過とともに統計的に有意な属性を示しています。各時点で有意な属性が存在する場合、その部分が色で強調されます。ある時点で複数の属性が有意である場合は、着色されたゾーンが複数の帯に分割され、すべての有意な属性が表示されます。
属性ごと帯域
分析の結果、重要であると判断された属性が表示されています。
これらの出力結果から、製品における主要な感覚とその時間的な変化、製品間の感覚の違いなどを分析することができます。
まとめ
TDS 分析は、製品の官能評価において、時間経過とともに評価者が感じる主要な感覚を明らかにする有効な手法です。XLSTAT を用いることで、TDS 分析を簡単に実行し、結果を得ることができます。
参考文献
- 日本官能評価学会編: 必読官能評価士認定テキスト, 霞出版社, pp.193-194. 2020.
- 川崎寛也: Temporal Dominance of Sensations (TDS): 感覚の経時変化を測定する新たな手法. 日本調理科学会誌 49(3): 243-247, 2016.
- Temporal Dominance of Sensations (TDS) in Excel
https://help.xlstat.com/6490-temporal-dominance-sensations-tds-excel
※ 本記事はこちらのチュートリアルページをもとに作成しています。記事内で紹介したサンプルデータもこちらからダウンロードすることができます。
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