XLSTAT による時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)
記事執筆 小田井 英陽
(一般社団法人日本官能評価学会理事、東京バイオテクノロジー専門学校講師)
- 時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)とは?
- XLSTAT による時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)
- 時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)を実行するためのデータセット
- XLSTAT を用いた時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)の手順
- XLSTAT を用いた時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)の結果
- まとめ
- 参考文献
時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)とは?
官能評価において、時間経過に伴う感覚の変化を評価する方法として、経時的優位感覚(TDS)、TCATA と共に代表的なものが時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)です。官能評価では時間強度分析が最も早く使用されていますが (Söjström, 1954)、測定機器と解析ソフトの進歩により最近でも特に食品・飲料の分野で多く用いられています*1, *2。
時間強度分析では、各評価者は単一の属性の知覚強度の時系列変化を記録するため、一点測定と比較して、製品や知覚を区別するための豊富な情報が得られる場合があります。
XLSTATによる時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)
時間強度分析は、XLSTAT Premium、XLSTAT Sensory で実施できます。この解説では、下記のXLSTAT のチュートリアルを参考にしています。
Time-Intensity | Statistical Software for Excel
Time-Intensity analysis in Excel | XLSTAT Help Center
また、サンプルデータは下記からダウンロードできます。
time-intensity-data_0.xlsm時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)を実行するためのデータセット
サンプルデータは時間強度(Time-Intensity・TI 分析)のシミュレーションデータです。この例では、6人のパネリスト(Judge.A~Judge.F)が2種類の製品(Prod.A・Prod.B)を試飲した時の甘味の強さの時間変化をそれぞれ2回ずつ評価しています。一回の測定時間は口に入れてから60秒間で、データは2秒ごとに記録されます。この評価と解析により、2製品の口内での甘味の時間変化を可視化し、定量的に記述することが可能になります。
XLSTAT を用いた時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)の手順
-
XLSTAT を起動し、[Sensory] > [時間データ分析] > [時間強度]を選択します。
-
ダイアログボックスが表示されるので、[一般タブ] の下記項目を指定します。
- [時間強度データ]:
分析対象の時間強度データが記録されているセルを選択します(列名は除く)。データの選択は入力欄にカーソルを置き、その後にエクセル上のデータを直接指定することで可能です。
- [製品]:
評価対象の列を選択します。
- [審査員]:
チェックを入れ、パネリストの列を選択します。
- [セッション]:
チェックを入れ、試行回数の列を選択します。
- [時間]:
変数ラベルおよび時間にチェックを入れ、時間強度データの列名を選択します。
- [時間強度データ]:
-
[オプション] タブに切り替え、以下の項目を指定します。
- [信頼区間 (%)]:95 と入力
- [モデル]:[Y = P + A + S] を選択
- [審査員変量効果]:チェックを入れる
- [セッション変量効果]:チェックを入れる
- [合成曲線作成]: チェックを入れ、[LiuおよびMacFie法] を選択
- [製品ごとに1曲線]: チェックを入れる
- [ビンの数]: 20と入力(今回、[ビン(Bin)の数] は20 としました。デフォルトは10 ですが、増やすとより滑らかな曲線になります。)
-
[出力タブ] に切り替えます。
デフォルトでは [記述統計]、[曲線パラメータ]、[合成曲線の表]、[分散分析]、[適合度統計]、にチェックが入っています。さらに [母数効果の第3種検定]、[製品効果] にもチェックを入れます。この場合、[分散分析]、[適合度統計] のチェックを外した方が結果が見やすくなります。 -
[OK] をクリックすると、計算が始まり、結果が別シート(時間強度)に出力されます。
XLSTAT を用いた時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)の結果
下記の図表を含む結果のシート(シート名:時間強度)がエクセルに作成されます。
- 記述統計 (質的データ):データの度数など
- 測定曲線パラメータ:各データの時間強度曲線のパラメータ表です。
各パラメータの説明は補足 を参照してください。
- 時間強度曲線:各データのぞれぞれの時間強度曲線の図です。
- 合成曲線:製品毎に合成された時間強度データの表(時間と強度)と時間強度曲線のグラフです。
合成曲線
製品AとBの合成曲線を比較することで、AはBよりも甘味がゆっくりと現れ始め、ピーク時の甘味の強さもやや強く、さらに甘味の持続性も高いと評価されていることがわかります。
ANOVA(分散分析)
最後に10個のパラメータについてのANOVA の結果が示されます。
[出力タブ] の [母数効果の第3種検定] にチェックを入れることでTypeⅢのANOVA の結果がそれぞれ表示されます。図は [I max] での分散分析の結果ですが、Product(製品)のp値が<0.001であることから、有意である(製品により、その値に有意な差がある)ということがわかります。
なお、今回、[オプションタブ] で [審査員変量効果] 及び [セッション変量効果] にチェックを入れることで、それぞれがランダム効果に設定されています。また、[モデル Y=P+A+S] を選択しているので、交互作用は考慮されていません。
製品効果
最後にANOVAでの製品効果の結果が表とグラフで表示されます。
[T start] は各サンプルですべて同じ値なのでANOVA は計算されません。
[T plateau] 以外のパラメータは有意である(製品により、その値に有意な差がある)ということがわかります。
補足
以下に各パラメータの説明を記載します。
- I max:ピーク強度または曲線全体で観測された最大強度。
- T start:刺激に対する反応が曲線上で最初に知覚される時点であり、ピーク強度のX%を超える最初の強度値として定義されます。
- T max:曲線上のピーク強度の時間位置。
- Tプラトー:測定された強度がピーク強度の(100-X)%より大きいTマックスの周りの時間。
- T ext:刺激の知覚の消滅の時点、測定された強度がピーク強度のX%よりも低いピーク強度の後の時間の位置として定義されます。
- Rの増加:T開始とT最大の間の強度増加の傾きまたは速度。
- R減少:T最大とText の間の強度減少の傾きまたは速度。
- 前の面積:ピーク強度の前の曲線の下の面積。
- 後の面積:ピーク強度の後の曲線の下の面積。
- 面積:曲線の下の総面積で、前の面積と後の面積の合計に等しくなります。
ここで、X は % で表される有意水準の値です。
以下に合成曲線の作成方法の詳細を記載しますが、デフォルトのLiu and MacFie 法で良いと思います。
- 平均:合成曲線は、すべての個々の曲線の時間ステップ平均です。
- パラメータ化:合成曲線は、測定された曲線パラメータから構築されます。
- Overbosch 法:合成曲線は、Overbosch (1986) で最初に提案されたアプローチに従って作成されます。
- Liu and MacFie 法:合成曲線は、Liu (1990) で提案されたアプローチに従って作成されます。
- Liu and MacFie 法を選択するとビン(Bin)数も設定する必要があります。
ビン数とは合成曲線を作成するためのデータ数になります。
ビン数が20の場合、ピークトップの前半、後半20個ずつ、計40データが計算され、曲線のグラフが作成されます。
- 合成曲線について各パラメータは算出されません。
まとめ
XLSTAT 統計ソフトウェアを用いて、シミュレーション・データセットの時間強度分析(Time-Intensity・TI 分析)を行うことができました。測定された曲線パラメータはアルゴリズムによって抽出され、個々のTI 曲線がすべて問題ないことを確認できました。また、Liu 氏とMacFie 氏が提案したアプローチに従って合成曲線を生成し、両方の製品の結果を比較し、差があることが確認できました。
記事執筆 小田井 英陽
(一般社団法人日本官能評価学会理事、東京バイオテクノロジー専門学校講師)
参考文献
*1. 堀江芙由美ら (2019) 「TI・TDS法によるカカオ豆の異なるビターチョコレートの呈味特性」日本官能評価学会誌, 23(1), 230106.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsse/23/1/23_230106/_html/-char/ja
*2. 大森雄一郎ら (2016) 「食感の違うグミのTI法、TDS法による官能評価と機器分析によるフレーバーリリースの検証」
日本官能評価学会2016年度大会発表
https://www.t-hasegawa.co.jp/storage/upload/document/201908/nsKJ5MrpMpNWD7Gv6eLe1NZdYW38niaxTFRaExYz.pdf
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