NVivo のコンセプトマップ機能で知識を整理し、理論を構築しよう

目次

コンセプトマップとは?

NVivo の「コンセプトマップ」は、リサーチの過程で生まれる複雑なアイデアや、データ間に潜む関連性を視覚的に整理するのに非常に役立つ機能です。図形とコネクタ(矢印)を使って、自分の思考や理論の展開を視覚化することができます。

  • 図形:
    研究テーマ、アイデア、人物、場所、またはNVivo 内のコードやケースといった「コンセプト(概念)」を表します。

  • コネクタ(矢印):
    コンセプト間の「関連性」を示します。「A がB の原因である」「X はY を必要とする」といった、関係性の意味(ラベル)を矢印に書き込むこともできます。

これらのアイテムをキャンバス上に自由に配置することで、頭の中にある複雑なアイデアや、インタビューデータから見えてきた理論を、一枚の図として整理・構築できます。このページでは、コンセプトマップの機能概要と基本的な使い方を分かりやすくご説明します。

※なお、このページではNVivo 15 Windows 版を使ってご説明しております。

コンセプトマップの活用場面と例

コンセプトマップは、リサーチプロジェクトのあらゆる段階で、さまざまな目的のために役立ちます。

プロジェクトの初期段階(仮説構築)

  • 目的:
    先行研究や自身の経験に基づき、研究の初期仮説や理論的な枠組み(フレームワーク)を図にします。

  • 活用例:
    文献レビューの結果を整理し、主要な概念や著者の関係性を視覚化する。

分析の途中段階(データ探索)

  • 目的:
    インタビューや文献から抽出したコード(概念)をマップに配置し、実際のデータに基づきながら関連性を探ります。

  • 活用例:
    • インタビュー対象者の意思決定プロセスや、その影響要因をマップ化する。
    • 組織やチームにおける連携の課題や促進要因を整理する。
    • データから浮かび上がる新たな関連性(仮説)を発見し、分析の方向性を見直す。

理論の構築段階(モデル化)

  • 目的:
    分析で得られた複数の要因間の関連性を統合し、現象を説明するための独自の理論やプロセスモデルを図として視覚化します。

  • 活用例:
    ある社会現象(例:特定商品のヒット)のメカニズムや背景にある要因を分析し、体系的なモデルを構築する。

結果の提示段階(情報伝達)

  • 目的:
    最終的に構築したモデルを、論文や学会発表のスライドで提示します。

  • 活用例:
    文章だけでは伝えきれない複雑な分析結果(例:要因の相互作用)を、直感的で分かりやすい一枚の図として提示し、読者や聴衆の理解を助ける。

データセットの説明

ここでは、看護学の研究を想定し「病棟看護師のバーンアウトに影響を与える要因の探求」というテーマを例に、コンセプトマップでデータを整理し、モデルを構築していく事例をご紹介します。

  • 研究テーマ:
    病棟看護師のバーンアウト(燃え尽き症群)に影響を与える要因の探求

  • 使用データ:
    3名の病棟看護師(経験年数や立場が異なる設定)への半構造化インタビューのトランスクリプト(架空)

  • 分析のゴール:
    インタビューデータから「過重な業務量」「人間関係のストレス」「サポート体制の不足」といった要因をコーディングし、それらが「バーンアウト」という結果にどのように相互に影響し合っているかを、コンセプトマップで視覚的にモデル化する。

  • NVivo での設定:
    3名のインタビューデータ(Word ファイル)がインポートされ、発言内容に応じていくつかのコードでコーディング済みであると仮定します。コンセプトマップは、これらのコーディングされたデータと連携させることで真価を発揮します。

インタビューデータ

コード事例

コーディング事例

サンプルデータのダウンロードはこちらから

sample-data-for-concept-map.zip

コンセプトマップの作成手順

ステップ1:マップを新規作成する

  1. メニューの [探索] タブから[マップ] > [コンセプトマップ] を選択

  2. マップの名前(例:「バーンアウト要因モデル」)を入力して、[OK] をクリック

ステップ2:中核となる概念(図形)を追加する

  1. キャンバスが表示されたら、まず[編集] にチェックを入れる

  2. 左側の [シェイプを追加] パネルを開き、「楕円」をキャンバスの中央にドラッグします。

  3. 図形をダブルクリックし、テキストとして「バーンアウト」と入力
    ※ここではあえて「バーンアウト」コードを使わず、中心概念として新しい図形を置いています。どちらでも構いません。

ステップ3:プロジェクトアイテム(コード)を追加する

  1. 画面左側のリストビュー(コード一覧)から、作成したコード(「バーンアウト」以外)をキャンバス上にドラッグ&ドロップ

  2. これらのコードを、「バーンアウト」の図形の周囲に配置

    【補足】

    マップに追加されたコード(「人間関係のストレス」など)をダブルクリックすると、そのコードにコーディングされた看護師の具体的な発言(上記サンプルデータ該当箇所)をすぐに確認できます。これにより、思考(マップ)とデータ(引用)を常に行き来しながら分析を深めることができます。

ステップ4:コネクタ(矢印)で関連性を示す

インタビューデータを読み解き、これらの要因が「バーンアウト」にどう影響しているか、また要因同士がどう関連しているかを矢印でつなぎます。

  1. メニューの [コンセプトマップ] タブから[コネクタ] を選択

  2. 「過重な業務量」のコードをクリックし、「バーンアウト」の図形までドラッグして矢印を引く

  3. 引かれた矢印を選択し、[F2] キーを押して「(+)影響を与える」とラベルを入力

  4. 対象者B やC の語りから、「サポート体制の不足」が「人間関係のストレス」を強めていると判断し、「サポート体制の不足」コードから「人間関係のストレス」コードへ矢印を引き、「(+)増幅させる」とラベル付けする

  5. 「人間関係のストレス」から「バーンアウト」へも矢印を引き、「(+)影響を与える」とラベル付けする

これで、「サポート体制の不足が人間関係のストレスを増幅させ、それが過重な業務量と相まってバーンアウトに影響を与えている」という、データに裏付けられた関係性のモデルが可視化されました。

【補足】

  • コンセプトマップからプロジェクトアイテムを削除しても、プロジェクトからは削除されません。
  • プロジェクトアイテム(コードやケースなど)の形状や色は変更できません。

作成したマップの保存場所と再編集

作成したコンセプトマップは、ナビゲーションビューの[ビジュアル化] > [マップ] フォルダに保存されます。

フォルダ内に保存されているコンセプトマップをダブルクリックすると、詳細ビューで再び表示できます。再度編集を行いたい場合は、詳細ビューの左上にある [編集] にチェックを入れ、編集モードに切り替えてください。

まとめ

NVivo のコンセプトマップは、単にアイデアを図示するだけでなく、実際のインタビューデータや文献から作成したコード(概念)を直接キャンバスに配置できる点が最大の特徴です。これにより、漠然としていた仮説がデータの裏付けと結びつき、思考が整理されていきます。さらに、コード間の関連性を視覚的に探求することで、これまで見落としていた新たな洞察や理論の構築が促されます。最終的に、その分析結果を一枚の図にまとめることで、結果を明確に伝達する手段となります。ぜひコンセプトマップをご自身の分析過程に組み入れてみてください。

参考ページ

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