がん看護学および緩和ケア、終末期ケアの研究をされている佐藤真由美先生と熊田奈津紀先生に NVivo を知ったきっかけや、活用方法、便利だと思った機能などを伺いました。
お二人は「日本エンドオブライフケア学会誌」に掲載の「乳がんサバイバーのアドバンス・ケア・プランニング態度の探索—質的研究—」でも NVivo を活用いただいています。
※記事内に使用している NVivo 画面はサンプルです。佐藤先生、熊田先生の研究とは関連はございません。
Q1. NVivo 利用のきっかけを教えていただけますか?
熊田先生
NVivo は博士課程での論文を執筆する際に知りました。それまでにも質的研究の経験はありましたが、NVivo のような専用ソフトの利用経験はなく、使用するという考えも当初ありませんでした。ですが、博士課程レベルの研究をする上で分析の客観性や厳密性を担保するため、そういったソフトを使った方が良いという助言を佐藤先生からいただき、NVivo を教えていただきました。
佐藤先生
質的研究のため言葉の分析を大事にしてくれるような分析ソフトはないかということで、色々探していたところ、NVivo に出会いました。
博士論文の審査には医師なども入ることが非常に多く、質的研究は量的研究ほど重視されていない傾向があります。
例えば、腫瘍の大きさが小さくなったというような「量」の研究は、医学系の先生方は大事にされています。一方で、言葉の持つ意味や言葉を用いた研究は、残念ながらいまだに理解いただけないことが多いようです。「質的研究は量的研究に比べて主観的な分析評価なのではないか」というふうにおっしゃられる方も少なくはないというのが現状です。
そのため論文の審査の際にも、いかにして客観性を打ち出したかということが大事になります。そういった際に、分析の客観性を裏付けるようなソフトの使用は非常に効果的と考えており、自分が指導する大学院生には NVivo をお勧めしています。
Q2. 質的研究のためのソフトで他に比較されたソフトはありますか? また、比較したうえで NVivo を選ばれたのはなぜでしょうか?
熊田先生
他社の QDA ソフトとも比較しましたが、NVivo は日本語のインターフェースに対応している点で扱いやすいというのと、佐藤先生も NVivo を利用されており、指導を受ける際に同じソフトを使っていた方がデータを共有しやすいと考え、NVivo の導入を決めました。
佐藤先生
以前はテキストマイニングソフトを使っていました。テキストマイニングソフトは単語の頻度や係り受けなどを数値化する上では良いのですが、言葉や単語の意味であったり、分析には物足りなさを感じます。また、価格も非常に高額なことが問題となります。
学生に勧める上では価格が高すぎるというのと、単に単語頻度や係り受けだけではなく、言葉の持つ意味を分析できるソフトの方が良いと考えて NVivo を選びました。
Q3. NVivo のトライアル版は利用されましたか?
熊田先生
研究の準備として文献レビューをしていた際に NVivo の無料セミナーを視聴し、その中で文献レビューにも使えるという話があったので、トライアル版を使用してみました。
その際にローデータとの比較のしやすさなどを実際に体験できたので、質的研究をする上でぜひ導入しようと思いました。
使い方のフォローアップもユサコできちんとされているという点も、NVivo を導入する上での決め手になりました。
Q4. NVivo 購入の前に気になった点などは何かありましたか?
熊田先生
特にありません。製品によってはトライアル版から製品版への移行がうまくいかないということもありますが、NVivo の場合は製品版にスムーズに移行できました。
佐藤先生
どういうことに使えるのだろうかと思っていましたが、ユサコのセミナーを通じてそのあたりはクリアになり、「これだったら導入しても良いかな」と思えるきっかけになりました。
また、困ったときにすぐにサポートに問合せができるのも安心材料になり、購入を後押ししてくれました。
ユサコ NVivo セミナー
https://rs.usaco.co.jp/seminar/nvivo/
※ご相談いただければ団体様向けに個別セミナーの開催も可能です。
Q5. NVivo の使い方はどのようにして学ばれましたか?
熊田先生
書籍「看護研究のための NVivo 入門」を購入し、セミナーで学んだ内容を確認しながら実際に操作し、進めていきました。
「看護研究のための NVivo 入門」
https://www2.usaco.co.jp/shop/g/gkangokenkyunotamenonvivo/
佐藤先生
大学のなかでも大学院生が NVivo を使い始めていることから、毎年 5 月に学内でユサコにセミナーを開催してもらっています。そのセミナーとセミナーの配布資料で使い方を学びました。セミナーをきっかけに看護学分野に NVivo が広まっている感じがします。
Q6. ユサコのクイックスタートガイドは利用されていますか?
熊田先生
書籍だと記載バージョンが古く、最新の情報が載っていないものがあるため、クイックスタートガイドは参照しています。
佐藤先生
利用しています。オンラインセミナーだけだと記憶に残らないので、資料があるとありがたいです。
大学で開催したセミナーも後日配布される資料があるので役に立っています。アナログ派なので、資料はオンラインだけでなく、紙で印刷したものがあると助かります。
NVivo クイックスタートガイド
Q7. NVivo の利用で特に役に立った機能はなにかありますか?
熊田先生
インタビューデータを文字起こししたテキストで、話者を区別するときに自動コーディング機能を使用しました。
発言内容を話者別に分けることでインタビューしている側の発言内容は出てこないような形で、インタビュー対象者の回答だけを一覧にして確認できるようにしています。
ワンクリックで分析対象を選定できるという点が画期的だと思いました。
発言者ごとの自動コーディング機能
インタビューを分析する際に便利な、発言者ごとの自動コーディング機能
https://rs.usaco.co.jp/product/nvivo/howto/automatic-coding-transcript.html
また、コーディングした後にコードのローデータを一覧で表示してくれる機能が便利です。
テーマ分析では作成したコードをテーマに集約していくのですが、そのテーマと齟齬がない一貫したものになってるかというのを見なくてはならないので、すぐにローデータに戻ることができるというのが使いやすかったです。
あとはコードストライプもコーディングの漏れがないかどうかを確認する際によく利用していました。
コーディングストライプ使用方法トップ10
https://rs.usaco.co.jp/product/nvivo/howto/codingstripes-top10.html
Q8. そのほかクエリ機能(頻出語クエリ、テキスト検索)などは使用されましたか?
熊田先生
頻出語クエリも使いましたが、単語レベルの解釈になるので、そのまま分析の結果になるというよりも「私のインタビューの対象者ってこういう言葉をいっぱい発言していたのか。じゃあ、その部分をちゃんとコードとして生成できているのかな」という確認の意味で利用しました。
佐藤先生
NVivo は質的研究のために利用しているので単語の頻度はあまり重視していません。それよりもその言葉の持つ意味がどういう風に他の言葉にかかってくるかの方が重要になっていきます。
テキストマイニングでも言葉の頻度や係り受けを図式化した論文や発表などは多くされていますが、看護の研究においては活用可能性は低いと考えています。
頻出語は、例えばコールセンターやマーケティング分野では大きく影響してくると思うのですが、私や指導している大学院生の研究では、その点はあまり重視していません。
Q9. 分析のほか論文執筆時には NVivo をどのように活用されましたか?
熊田先生
質的研究はその性質上、分析が全て終わってから論文を書くというよりも、論文を書きながら常にデータを取り、分析する必要があります。そのため、論文を書きながらもローデータに戻り、結果や考察を確認するために常に NVivo を立ち上げていました。
使用した研究方法では、出来上がったテーマに対してそのテーマを代表するようなローデータを必ず結果として示すというルールがあったので、どのローデータを選ぼうかなという時にも、NVivo の機能はかなり役立ちました。
佐藤先生
自分が作成したコードと自動コーディングで作成されたコードを比較しながら結果をまとめていきました。両者のコードを比較することで、何が違うのだろうというようなことを振り返るのにいい機会になったと思います。
Q10. NVivo を使用するうえで困っていることはありますか?
熊田先生
同僚にも NVivo を使っている人がいて、一緒に研究しているのですが、バージョンが違うとファイルの共有が難しく、そこがネックになっています。そのため今は個人作業でしか使用できていないです。
※最新バージョンである NVivo 15 では、その1つ前のバージョンである NVivo 14 とプロジェクトファイルを共有することができるよう改善されています。
佐藤先生
毎年丁寧に学内セミナーをユサコに開催していただいており、困った時にメールでもすぐに質問できるというのは非常に心強いです。
ただ、購入するにはやはり金銭的な負担があります。私立の大学院は授業料も高いため、なかなか学生に対し勧めづらいところがあります。研究費を獲得できるような後押しがあると良いなと思います。