エディテージ x ユサコの論文執筆ヒント集

Vol.60:オープンアクセスについて研究者なら知っておきたいこと

オープンアクセスは、研究の継続的な発展を促しつつ人々が科学的知見に触れる機会を増やすために、誰でも研究にアクセスできるようにするべきだという前提に基づいています(※1)。

論文出版には、従来からの購読型とオープンアクセス型の2つのモデルがあります。この2つのモデルについて、研究者はその長所と短所も含めてよく知っておく必要がありますが、条件等について分かりにくい部分もあるかもしれません。

そこでこの記事では、オープンアクセスの種類とその概要について説明するとともに、ジャーナルへの論文投稿時に購読モデルかオープンアクセスモデルかを選ぶ際に考慮すべきポイントについて解説します。


購読モデルとオープンアクセスモデルの基本

購読モデル は、ジャーナルコンテンツにアクセスするために読者が料金を支払う、従来からある方式です。具体的には、研究機関の図書館がジャーナルの一括購読契約を結んでいて、学生や研究者はその契約に基づいてジャーナルコンテンツにアクセスできるという形態が一般的です。

ただ、研究機関とのつながりがない人や、購読対象になっていないジャーナルを読みたい場合は、別途料金を支払わなければなりません。このモデルでは通常、著作権は著者からジャーナルに譲渡されます。

オープンアクセスモデル は、誰でも無料で論文を読める方式です。通常、オープンアクセスジャーナルに論文を掲載するためには論文掲載料(APC)を支払う必要があります。著作権は、著者が保持するケースが一般的です。
オープンアクセスジャーナルでは主に、共有と再利用を可能とするクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが使用されます。オープンアクセスモデルの種類については後ほど触れます。


学術出版のトレンド

STM Global Brief(※2)によると、2019年に出版された学術論文の30%以上がオープンアクセスで公開されました。英国などの一部の国では、その割合はさらに高いものでした。研究へのパブリックアクセスが引き続き促されていることを考えると、この割合はまだまだ増えていくでしょう。

オープンアクセスは、研究への平等なアクセスを大きく前進させたという意味で、学術出版における重要な変化と言えます。従来の購読モデルによるアクセス権は年々高額になっており、とくに発展途上国の研究機関にとっては法外な価格になっています。そのような中で、オープンアクセスは研究への公平なアクセス機会を提供しています。

完全なオープンアクセスですべてのコンテンツを無料で提供するジャーナルもあれば、一部のコンテンツのみを無料で提供し、残りを有料で提供しているハイブリッドジャーナルもあります。さらに、一時的な閲覧制限期間を設けた後にオープンアクセスを適用するジャーナルもあります。


オープンアクセスの種類

オープンアクセスには主に、ゴールドモデルとグリーンモデルと呼ばれる2つの種類があります。以下はこの2つのモデルの概要ですが、このほかにもさまざまなバリエーションがあります。通常は、以下で説明した場合を除いて査読が行われます。

  1. ゴールドモデル
    このタイプのオープンアクセスジャーナルは、読者に無料でオンラインコンテンツを提供します。論文掲載料(APC)は通常、著者が負担しますが、著者の所属機関または資金提供期間が賄うこともあります。

  2. グリーンモデル
    このモデルでは、論文は購読型ジャーナルで公開され、論文受理後のバージョンが、公開前にオープンアクセスリポジトリに保存されます(セルフアーカイブ)。この方法は、APCを賄えない場合によく使われます。
    ただし、査読前の論文が保存されることもよくあります。また、セルフアーカイブを許可していないジャーナルもあるので、著者はリポジトリに保存する前にジャーナルに確認する必要があります。

この2つのモデル以外にもバリエーションがあり、たとえば購読型ジャーナルでも、特別号や特定の論文が無料で公開されることがあります。また、一部のジャーナルはダイヤモンドまたはプラチナオープンアクセスと呼ばれるモデルを採用し、著者にも読者にも料金を請求しません。


オープンアクセス略史

オープンアクセスモデルの誕生は1991年にさかのぼります。これまでの主な出来事を振り返ってみましょう(※3)。

  • 1991 - 米国の物理学者ポール・ギンスパーグが科学論文のオンラインリポジトリを開設。後にArXiv.orgに名称変更され、現在約200万件の論文が登録されている。
  • 1993 - 米国でオープン・ソサエティ協会が設立される。2002 年にオープン・ソサエティ財団(OSF)に改名。OSFは自由でオープンなアイデアの交換を世界中で促している。
  • 1997 - オープンアクセス出版の電子データベースScientific Electronic Library Online (SciELO)がブラジルで開始。
  • 1998 - 公的資金を受けた研究へのオープンアクセスを促す非営利の取り組みであるパブリックナレッジ・プロジェクト (PKP) がカナダで創設される。
  • 2000 - 初のオープンアクセス学術出版社と言われるBioMed Centralが設立。2008年にSpringerに買収され、世界最大のオープンアクセス出版社となる。
  • 2001 - 従来の出版に代わるものとしてPLOS(公共科学図書館)が設立され、180か国の科学者が参加。PLOSのジャーナルであるPLOS ONEは現在もっとも多くの論文を出版している。
  • 2002 - オープンアクセスと研究論文に関するポリシーの公式声明であるブダペスト・オープンアクセス・イニシアチブ (BOAI) が公開。10 周年を機に具体的な推奨事項がいくつか追加された。
  • 2008 - 米国立衛生研究所 (NIH) のパブリックアクセス方針が公式化。本方針によると、NIHが資金を提供した研究は公開後12か月以内にフリーアクセスにしなければならない。
  • 2012 - アカデミック・スプリング運動の開始。世界中の学術関係者が、従来のジャーナル出版ではなく、論文への無料のオンラインアクセスを支持し始めた。米国で開始されたAccess2Researchキャンペーンでは、納税者が資金提供した研究は一般に無料公開されるべきであると主張。
  • 2013 - 2014 - ベルリンとワシントンの学生や若手研究者のグループが、科学研究、データ、教育リソースへのオープンアクセスに関する会議を開催。
  • 2018 - 国際的な研究助成機関の連合体であるcOAlition-Sが、すべての研究をオープンアクセスにすることを目指すプランSを発表。

論文出版形式を決める際に考えるべきこと

論文をどこで発表するかを決めるのは、難しいプロセスです。また、どのような形式を選んだとしても、それぞれに長所と短所があります。論文投稿先を決める際の3つのポイントを紹介します(※4)。

  1. 掲載料
    オープンアクセスは必ずしも無料というわけではありません。通常は著者が費用を負担しますが、所属機関や助成機関が賄うこともあるので、投稿前に対象ジャーナルに確認しましょう。倫理的にまっとうなオープンアクセスジャーナルは、費用について事前に明確に示しています。

  2. 著作権
    オープンアクセス出版では、著作権は著者が保持します。ただし、ジャーナルが採用するライセンスによっては、読者によるコンテンツ使用に制限があるので、ジャーナルが提供するライセンスに注意する必要があります。一般的に使用されるライセンスは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスです。

  3. ハゲタカジャーナル
    ハゲタカジャーナルへの投稿は避けましょう。ハゲタカジャーナルは、虚偽の内容や曖昧で誤解を招く情報を提供し、通常の慣行から逸脱した振舞いをします。論文を投稿する際は、ジャーナルについて事前によく調べましょう。

オープンアクセス関連のリソース

以下は、オープンアクセスに関するデータベースとリソースです。ぜひ参考にしてください。


参考資料

  1. Majumder K. An early career researcher's guide to open access publishing. Editage Insights. [Accessed October 4, 2022]
  2. STM Global Brief 2021.
  3. Cold Spring Harbor Library. Open Access: History & Policies. [Accessed October 4, 2022]
  4. Editage Insights. INFOGRAPHIC: Open access explained: Why publish open access? [Accessed October 4, 2022]
 
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