Vol.56:リジェクトになる一番多い理由
学術出版において、不採択は当たり前の出来事です。その分野の頂点にいるような研究者でさえ、不採択を経験してきました。論文審査された研究で、ジャーナルが論文を不採択にする理由を調べたものがいくつかあります。
これらの研究が引用している、不採択になる一番多い理由を以下に挙げています。
オリジナリティ、新規性、重要性の欠如
- 一般化できない結果
- 新しい技術や技法が出たため、時代遅れになった方法の使用
- 相当の知識を付加することなく、発表されている研究結果を拡張・反復している二次分析
- すでに知られている知識を報告しているが、新しい場所、新しい母集団、新しい文化的背景へと広げることで、その知識を斬新なものと位置づける研究
- 独創性に欠ける、ありきたり、あるいは取るに足らない結果
- 臨床的、理論的、あるいは実践的意義を持たない結果
アメリカの大手新聞の一つであるニューヨークタイムズは、「ジャーナルのエディターは通常、画期的で新しい研究の掲載を好む」という真実を認識していました。14の学術雑誌では、刺激的で新鮮な研究を見つけようと常に目を光らせています。
著者も多くが、自分たちの論文の重要性を理由付けるために、「このことがこれまで研究されてこなかったから」という理由を挙げる傾向があります。この理由では十分良いとはいえません。
研究はより広い文脈に位置づける必要があります。著者は、その研究がなぜ重要なのか、たとえば、特定の医学的介入に影響を与えるだろう、あるいは従来型の理論や信念を変えるであろう、といった特別な理由を挙げなければなりません 。
ジャーナルと合わない
- ジャーナルが特に狙っていない、非常に狭く特殊な読者層の興味を引く研究結果
- 定められた目的やジャーナルが扱う範囲からはずれている論文
- ジャーナルの読者層の興味を引かないテーマ
- ジャーナルが定めたフォーマットに従っていない論文 (たとえば、事例報告は掲載しないと明言しているジャーナルに投稿された事例報告)
査読にすらまわしてもらえず、ジャーナルによって即座に不採用にされる論文は多いです。というのも、それらの論文がジャーナルの読者層にふさわしくなかったり、ジャーナルの目的や範囲にあっていなかったりするからなのです。
改善する方法は簡単です。 時間をかけて論文を投稿するのに(正しい)適したジャーナルを選びましょう。どのジャーナルに投稿するか決める前に、ジャーナルのリストを作り、どんなジャーナルがあるか選択肢を見直すところから始めましょう。
研究デザインに欠陥がある
- リサーチクエスチョンがうまく作られていない
- リサーチクエスチョンに答えるためのアプローチがうまく概念化されていない
- 脆弱な方法、あるいは信頼性の低い方法を選んでいる
- 研究で取り上げた問題に適していない、誤った方法やモデルを選択している
- 統計的分析が不適切
- データの信頼性が低い、あるいはデータが不完全である
- 使用された器具が不適切、あるいは最適でない
- サンプル数が小さい、あるいはサンプルの選択が不適切である
うまく書けている論文であっても、研究デザインの欠陥を隠すことはできないでしょう。事実、これは研究の最初の段階、つまり研究を概念化するときに解決しなければならない根本的な問題です。
こうした欠陥を予防するためには、文献レビューを徹底的に行い、自分自身の研究にとって最高の方法論と最高の実践を見つけ出すことが一番の方法です。
文章と構成が不十分
- 方法についての記述が不十分である
- 結果を繰り返しているだけで、結果の解釈を行っていない考察
- 研究理由についての説明が不十分である
- 文献レビューが不十分である
- 研究データに裏打ちされていないように見える結論
- 研究を広い文脈の中に位置づけていない
- 序で、研究している問題の背景をしっかり位置づけていない
論文の中で著者が説得力のある、合理的な議論を示すことが非常に重要です。文章を通じて、自分の研究が妥当かつ重要であると、読者に納得させることができなくてはいけません。
論文の準備が不十分である
- ジャーナルの投稿規程に従っていない
- 文が明快・簡潔ではない
- タイトル、アブストラクト、および/またはカバーレターに説得力がない
- 冗長な言い回しや、過度の専門用語の使用
- 文法の間違いやスペルミスのような不注意による誤りが多い
- 図表がうまく作られていない
著者が非英語話者である場合、さらなる問題に直面することが多いです: 査読者は、必ずしも論文の内容と文章のスタイルを区別するとは限りません。ですから、質の高い研究であっても、その論文が結局はネガティヴなコメントを受ける可能性もあるのです。
しかしながら、英語ネイティヴの有人や同僚に論文を吟味してもらう、あるいは論文を専門家によって編集したり体裁を整えてもらったりすることで、このカテゴリーの問題はすべて、簡単に解決することができます。
論文の質とは関係がない不採択理由
論文の質の低さだけが不採択の理由ではありません。ジャーナルの決定に影響を与える可能性がある主な要因もいくつか挙げましょう:
- スペースの制約
質の高い論文が不採択にされることはまれで、その場合の一番の理由はスペース不足です。ジャーナルが扱う範囲をすべて示しているような、さまざまなテーマに関し論文を掲載したいとジャーナルは考えています。
特に紙書籍のジャーナルエディターは、限られた数の論文しか掲載できないので、どの論文にするかよく考えて選別しなければなりません。
オープンアクセスジャーナルの場合は、スペースは大きな問題ではないので、こうした配慮に制約を受けることは少ないです。 - 査読者の質と経験
査読の質は、査読者の職歴、学歴、研究上の関心などにより大きく異なります。 - 投稿論文の数
見れば明らかですが、数多くの投稿論文が寄せられるジャーナルは、不採択の数も多いでしょう。たとえば、ネイチャー誌には一年に一万本の投稿がありますから、質の高い論文ですら不採択になるのは、避けられないことです。 - ジャーナルの意思決定方針
ジャーナルの意思決定方針はジャーナルごとに大きく異なります。たとえば、大幅な修正を必要とする論文はすべて不採択にするという方針のジャーナルもあれば、論文の質に確信が持てない場合はもう一度別の査読過程を完了させようとするジャーナルもあります。 - ジャーナルエディターがある特定の時点で特別な論文を探している
ジャーナルエディターが、あるテーマに関する論文を掲載したいと思ったり、現在注目されている話題に関心をもったりすることが、時にはあるかもしれません。そういう場合は、その特定のテーマに焦点を当てた論文をより多く採択する傾向がみられるかもしれません。 - 同じテーマの投稿論文が2つ以上ある
この場合は、ジャーナルがそれらの中から1つだけ掲載し、類似したテーマの論文がすでにあるというだけの理由で他方を不採択にするということもありえます。
ジャーナルエディター秘話
評判の高い経済学者から一通のレポートを受け取りました。その中にはこう書いてありました。
『私は寛大なレポートを書きました。なぜなら著者に経験がなく、とても若いことは明らかでしたので、彼をがっかりさせたくなかったからです。けれども間違ってはいけません。この論文には何ら貢献しているところがなく、(ジャーナルエディターである)あなたも修正を促すべきではありません。』
私は不採択にしましたが、その論文の著者はすでにノーベル経済学賞を受賞している人でした
結論
ジャーナルが論文掲載を不採択にする理由はたくさんあります。研究や論文の質が原因のこともあれば、ジャーナルとのミスマッチといった、完全には避けることのできない理由によることもあります。
さらに、単にスペースの制約などの問題により、質の高い論文ですら不採択にされることもまれではありません。
上では、一番良く見られる不採択理由をいくつか挙げていますが、それらだけが理由であるわけではありません。その他の理由として、サラミ法、倫理方針への不適合、剽窃などがあります。