エディテージ x ユサコの論文執筆ヒント集

Vol.53:査読の依頼を断る理由

査読は学術出版に不可欠です。査読者が大きな敬意を払われているのは、疑わしい研究をふるい落とすことによって、出版される論文の質の向上に貢献しているからです。出版される論文の数は年々増加しており、査読者が査読依頼を受ける機会も増えています。

査読は、合意の上で空き時間に行われるボランティア活動であり、通常は無償です。そのため、査読依頼を引き受けることに消極的になる人が増え、ジャーナル編集者が査読を依頼することはますます困難になっています。


American Political Science Reviewの編集者であるマリケ・ブルーニング(Marijke Breuning)氏と同ジャーナルのスタッフが、あるアンケート調査を実施しました。その目的は、査読依頼が断わられる理由について理解を深め、拒絶が(査読依頼の多さによる)「査読疲れ」によるものなのかどうか、そして査読依頼を受け入れるか否かは性別によって異なるのかを見極めることです。

この調査結果は、「査読疲れ?学者が査読を断る理由(Reviewer Fatigue? Why Scholars Decline to Review their Peers' Work)」というタイトルの論文として出版されました。


American Political Science Reviewでは、2013年に専門家3414名に対して4563件の査読を依頼しました。1論文あたり平均6~7名に査読が依頼され、ました。全ての依頼のうち、30.6%は女性に送られました。この割合は、この分野の研究者の男女比を反映しています。

ブルーニング氏が率いる調査チームによると、査読依頼を引き受けるあるいは断るとの返事をした査読者は、全体の82.8%でした。このうち、引き受けるという回答が60%近くだったのに対し、断るという回答は23%近くでした。査読者が依頼を引き受ける割合に、性別による違いは見られませんでした。


この調査結果で興味深いのは、査読依頼を断る理由です。女性が断る際の理由は、ほとんどが「その他の個人的な事情(自分や家族の病気など)」あるいは「休職/サバティカル」であったのに対し、男性が断る際の理由は「管理業務(学科・学部長、委員会の仕事)」が多い傾向がありました。

その上で調査チームは、査読依頼を断る際に「査読疲れ」が理由となったかどうかに注目しました。前出の論文では、「査読疲れ」を「すでに査読中の論文があるため、追加の査読依頼を受けることができない状態」」と定義しています。査読疲れによって査読依頼が断られた割合は14.1%でした。

さらに、男女すべての回答者の38.9%が「多忙」を理由に査読依頼を断っていますが、論文の著者たちは、これも査読疲れによるものと考えられるとしています。


この調査から、査読依頼を断るのは、査読疲れだけが理由ではないことが分かります。拒否の理由が「多忙」であるケースも多くあります。

論文では次のようにまとめられています。「査読依頼を断る理由には様々なものがあることから、研究者は公私ともに多忙であることが分かる。査読疲れは、査読依頼を断る理由の一つではあるが、唯一の理由ではない」


査読は学術出版の要ですが、ジャーナル編集者は、論文原稿を分析するのにふさわしく、かつその責務を引き受ける意欲を持つ査読者を探すのに苦労することが多いものです。

しかし、編集者がさらに苦労するのは、ジャーナルの定める期日を守ってくれる査読者を探すことです。査読が遅れたり、査読者が途中で役目を降りたりすると、編集者は代わりの査読者を探さなければなりません。査読者の推薦を著者に依頼するジャーナルもあります。

Journals for the American Society of Civil Engineersのディレクターであるアンジェラ・コクラン(Angela Cochran)氏は、この慣習が査読疲れに拍車をかけていると指摘します。

コクラン氏は、「編集者側には1万人程度の査読者のあてがあるかもしれないけれども、著者にはそこまでのあてがない。このため、連絡がしやすく依頼を引き受けてくれそうな人を選びがちになる」と説明した上で、「1万人の査読候補者から50名の『常連』を選んでいれば、この50名の優秀な査読者に過剰労働を強いることになる」と述べています。


査読者を選び、査読を依頼する方法を改善するために、論文では以下のことが提案されています。

■ジャーナル編集者は「常連以外の」査読者を探すべきである。(論文では、初めて査読を依頼された人の多くは、依頼を受け入れて責務を果たす確率が高いと指摘している。)博士号(PhD)を取得したばかりの研究者や、様々な研究機関で精力的に活動している学者を含め、様々な人に査読を依頼してみるべきである。

■編集者は、学位論文データベースや最近の会議録、Google Scholar上の最新論文などをオンライン検索して、査読候補者を増やす努力をすると良い。

■編集者は、自動メッセージ機能を使うのではなく、個人に宛てた文章を書いた方がよい。その方が、査読の依頼に対する反応がよくなる傾向がある。


ジャーナル編集者は、査読者の任命に大きなプレッシャーを感じています。しかし、論文投稿数の増加とともに、研究者数も相応に増えているという点に注目すべきです。つまり編集者は、査読候補者を増やすことで、査読疲れという問題を解決することができるのです。

査読は学術出版において重要な役割を果たしているので、査読システムを維持するためには何らかの努力がなされるべきです。その過程で、論文の質や、投稿から出版までの時間にも、よい影響がもたらされるでしょう。

 
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