エディテージ x ユサコの論文執筆ヒント集

Vol.42:査読プロセスを乗り越えるために欠かせない、投稿前の徹底チェック

科学論文を読んで、その論文を信頼するかどうかの判断基準となるものは何ですか?斬新な視点をもたらす研究テーマでしょうか?あるいは、数字や図の正確さ?再現性?それとも、一流誌に掲載された、上手くまとまった論文であることでしょうか。

科学界では、信頼性のあるハイインパクトな論文は、これらのすべての要素を兼ね備えていると考えられています。Publonsが査読の現状を調査して2018年に発表した報告書「Global State of Peer Review」によると、毎年投稿されている論文の数は、なんと1370万本以上です。

ジャーナルは、この膨大な投稿論文の中から、ベストな研究をどのように選び出しているのでしょうか。ここで登場するのが、査読プロセスです。査読プロセスでは、一つ一つの原稿について、高品質で有意義な研究であるかどうかが厳正な検討によって確認され、出版に値するか否かの判断がなされます。

研究者は、査読プロセスの重要性を強く認識しています。前述の報告書「Global State of Peer Review」によれば、査読プロセスは「重要」または「非常に重要」であると回答した研究者は98%にも上りました。これは、研究の質を担保する門番としての、査読の重要な役割が認められているということでしょう。

しかし、新たな研究の実証を担い、時間と手間を要する重要プロセスである査読は、投稿論文数が急増する中で、さらなる負担を強いられています。


1. 査読者と著者が抱える問題

査読者は、査読の対価としての金銭的報酬ばかりか、その貢献に対する認知すら得ていません。その上、自分の研究と査読を両立しなくてはなりません。こうした現状は、査読プロセスに悪影響を与え、査読者が疲弊する原因となっています。

事実、データによれば、査読者全体のたった10%の人で、査読のおよそ50%を担っていることが分かっています。科学研究のアウトプットが年々増加する中、ジャーナルは、各分野の経験豊富な査読者を確保することが難しくなっており、編集プロセスにさらに負担がかかる事態となっています。具体的には、ジャーナル編集者の75%が、業務上一番の困難として、「査読者を見つけて査読依頼を承諾してもらうこと」と回答しています。こうした状況によって、編集者だけでなく、論文を投稿する著者にも影響が生じています。

投稿から出版まで長い時間待たなくてはならないことに、苛立ちを感じている著者は多いと思います。アクセプトされるか不明なだけでなく、修正要求にも時間がかかると想定されるからです。

査読を担える研究者の数が減れば、すでに時間のかかっている査読プロセスが、さらに長くかかる可能性があります。データによれば、投稿から査読を経て最終的にアクセプトされるまでの編集プロセスに、4~8週間かかることもあることが分かっています。

審査後の判定が(審査結果としてもっとも多い)「修正後再提出」であった場合、査読期間が1年を優に超えることも稀ではありません。科学の公正性の維持を担う査読が、こうした不均衡な状態にあることを受け、論文著者らの間では、自らももっとプロセスに関与しようという動きが世界的に高まっています。

それでは、査読プロセスをスムーズに通過してアクセプトの可能性を上げつつ、同時に査読者の負担を減らすためには、論文著者の立場から、何ができるでしょうか?


2. 投稿プロセスを加速させるために、論文著者として何ができるか?

著者側にも、査読プロセスを加速するためにできることがあるのでしょうか?次の例を使って簡単に説明しましょう。

あなたはある手続きのため銀行に向かっています。到着すると、長い列ができていました。いらいらしながら長い時間待ってようやく窓口にたどり着くと、必要な情報や書類が不足していることに気づきます。一度帰って、また一連のプロセスをやり直さなくてはなりません。必要書類がすべてそろっていることをあらかじめ確認しておけば、こうした状況を回避し、ストレスなく手続きができたはずです。「準備万端」整っていれば、銀行員とあなたの双方にとって、時間と手間の節約になるのです。

同じロジックを、論文原稿の準備に当てはめることができます。投稿前に論文を徹底的にチェックすることの重要性は、いくら強調してもし過ぎることはありません。投稿前チェックは、アクセプトの可能性を高め、査読期間を短縮し、デスクリジェクトを回避することにつながります。でも一体、何から手を付ければいいのでしょうか?

投稿前チェックを行う皆さんのために、査読が長引く主な原因(文章や構成の不備、剽窃、ジャーナルとのミスマッチ、情報の不足など)を回避できるよう、チェックリストを用意しました。


3. 論文チェックリスト5項目

論文投稿の準備は整いましたか?アクセプトの可能性を上げるために、必ず見直しと修正を行いましょう。投稿する前に、以下の項目をチェックしてみましょう。

  1. 文章と言葉の質
    ・スペルミスや文法の間違いはないか?
    ・専門用語の使い方は正しいか?
    ・単語の選択や文章の構成、論理の流れは適切で分かりやすいか?
    ・科学論文にふさわしい言葉を使っているか?

  2. 参考文献
    ・参考文献は最新のものか?
    ・引用文献の並びは正しいか?
    ・参考文献リストの形式は投稿先ジャーナルの規定に沿っているか?
    ・文中で引用した文献は、すべて参考文献リストに反映されているか?

  3. 図と表
    ・重複や、不明瞭な箇所や、理解しにくい情報やデータはないか?
    ・表のタイトルや、図とグラフの凡例、画像のキャプションに誤りはないか?
    ・図から抜け落ちているデータはないか?
    ・表や図の引用は適切に表記されているか?

  4. カバーレター
    ・送付者の情報に漏れはないか?
    ・利益相反の恐れのある商業的・金銭的関係性について開示しているか?
    ・倫理的懸念がなく、所属機関が承認済みの論文であることを明記したか?

  5. その他
    ・剽窃チェックは済んでいるか?
    ・イントロダクションや考察など、必要なセクションはすべてそろっているか?
    ・論文に含まれる画像はすべて、倫理指針に準拠しているか?
    ・投稿先のジャーナルが定めた語数制限を意識して論文を作成したか?

まとめ

上記のチェック項目に対する答えの大半が「はい」であれば、論文を投稿する準備が整っていると言えるでしょう。ただ、こうしたチェックが重要なのは確かですが、ほかの業務も山積みの多忙な研究者にとっては、時間と手間のかかる面倒な作業になりがちです。次回の投稿前に是非上記のチェックリストをご参考いただければと思います。

 
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