エディテージ x ユサコの論文執筆ヒント集

Vol.32:学術論文に磨きをかける実践的ヒント6選 前編

友人にメールを送るときは、文章の質よりも内容を重視するのではないでしょうか。同様に、世間話や友人とのおしゃべりの際に、アクセントや発音が問題になることはまずありません。

しかし、研究プロポーザル、課題、研究論文を書くとなると、そうはいきません。綴り、文法、句読点、単語の使い方に間違いがないか、読者にマイナスの印象を与えないかと不安になったり、アイデアや情報を簡潔明瞭に伝えたいと願ったりするはずです。また、学会発表では、自分の声や服装、姿勢などに問題がないか気になるかもしれません。

Oxford Learner's Dictionary of Academic Englishでは学術ライティングを下記のように定義しています。

  • 簡潔
  • 形式的
  • 明瞭
  • 非人格的
  • 暫定的
  • 綿密な構成物

<参照> Oxford Learner's Dictionary of Academic English. 2014. Oxford: Oxford University Press.
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/academic/

論文執筆に磨きをかけたいと願うなら、これらの違いを頭に入れておきましょう。この記事では、上記の点について、例を交えながら解説します。

今回の記事は前編・後編と2回に渡り、論文に磨きをかける実践的ヒントを6つご紹介します。


1. 無駄な言葉を省く:抽象名詞は動詞に置き換え、冗長な表現を避ける

優れた学術文書は、簡潔に書かれています。ジャーナル論文、短報/速報、ケースレポートといった文書には、文字数制限があるため、情報の繰り返しは避けなければならないのです。

■繰り返し表現

以下のような繰り返し表現がよく見られます

  • タイトルに含まれている情報を、アブストラクトで繰り返す。

  • アブストラクトに背景情報を含める(アブストラクトに背景情報は不要)。
    たとえば、タイトルが「A new method to control rats(ラットを制御するための新手法)」という論文で、アブストラクトの冒頭に「A new method of controlling rats was evaluated.(ラットを制御するための新たな手法について検討した)」と書くのは無意味です。また、この論文のアブストラクトに、ラットが運び込む病原菌による被害の度合いといった詳細情報を含める必要もありません。

  • イントロダクションで同じ情報を繰り返す。

  • 表で示されている情報を、本文内で言い換える/繰り返す。
    たとえば、上記論文に、5つの薬品におけるラットの死亡率に関するデータを示した表があるとして、本文で「薬品Aによる死亡率はX%、BはY%、CはZ%…」のように述べるのは、冗長と言えるでしょう。
動作動詞

文章の単語数を減らす簡単な方法は、「-tion」という表現を使わないことです。「We carried out an exploration(調査を行なった)」と言うのではなく、「We explored(調査した)」と言い換えることができます。

また、「germination was 80%(発芽率は80%だった)」ではなく「80% of the seeds germinated(種の80%が発芽した)」、「the incubation temperature for the culture was 29 °C(培養温度は29°Cだった)」ではなく「the culture was incubated at 29 °C(29°Cで培養した)」と言い換えることが可能です。

学術ライティングについて広範な研究を行なっているヘレン・ソード(Helen Sword)氏は、このような名詞を「ゾンビ名詞」と呼んでいます。

冗長表現

1つの言葉で足りるところに、2つ以上の言葉を使う必要があるでしょうか?たとえば以下の例文は、それぞれ下線を引いた単語が不要なため、冗長な表現になっています:「most specimens were blue in colour(ほとんどの試験体が青色だった)」、「roots penetrate into the soil to a depth of 5 meters(根は、深さ地下5メートルまで伸びた)」、「the differences were statistically significant at 1% level(差は1%の度合いで統計的に有意だった)」。

また、「for example(たとえば)」、「including(~を含めて)」、「such as(~といった)」、「etc.(など)」を同一文章内で重複して使用しないようにしましょう。これらはすべて、リストが網羅的ではなく、一部を抜粋したものであることを示す言葉です。


2. 略語や口語表現を避ける

優れた学術文書は、改まった調子で書きます。したがって、「isn't」、「can't」、「'phone」といった省略表現は使用しません。これらを正式な形で書くと、「is not」、「cannot」、「telephone」となります。

口語表現を正しく使う(またはインフォーマルな表現を正しく使う)ことによって、英語に熟達していることをアピールできるかもしれません。しかし、研究論文は世界中の人々に向けて発信するものであることを忘れないようにしましょう。

英語は、英米豪をはじめ、各国や地域によって異なる形で使われており、口語表現はローカルなものです。そのため、口語表現やインフォーマルな表現では、正しく理解してもらえない可能性があります。


3. 主張を的確に表す言い回しを使う

優れた学術英語は、優れた科学と同様、精密なものです。科学がほかの研究と区別されるのは、測定や集計による数値が重視されているためです。どの分野にも専門用語があり、それが各分野に特有のコンセプトや物理的対象、状況などの表現に役立っています。

また、正しい用語を使用することで、対象物に精通していることを示すことができます。たとえばタイポグラファー(活版技術者)にとって、「font(フォント)」と「typeface(書体)」、「kerning(カーニング)」と「tracking(トラッキング)」は、別の意味を持つ言葉です。

同様に、酪農家は「heifer(若い雌牛)」と「cow(牛)」の違いを知っていますし、昆虫学者がクモを昆虫に分類するようなことはありません。


いかがでしたか。後編では「客観的かつ淡々としたトーンの語り方」、「 修飾語を控えめな使い方」、「読者が読みやすいような整理の仕方」についてご紹介します。

 
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