エディテージ x ユサコの論文執筆ヒント集

Vol.30:科学論文における単語選びのミス6タイプ 前編

この文にはどちらの単語を使うべきか?この文で意図が伝わるだろうか?誰もが、このように悩みながら論文を執筆されていることかと思います。

非英語ネイティブの研究者が書いた研究論文では、単語選びのミスが言語的誤りの大きな割合を占めています。各分野にそれぞれの慣例があるのと同様に、分野ごとに研究者が犯しがちなミスがあります。この記事では、特に物理科学分野の論文で見られるミスを取り上げます。

研究論文において、言語は研究結果を伝えるための道具です。したがって、言葉を効果的に使うことがきわめて重要であり、論文の分かりやすさを損ないかねない誤った言葉遣いを避ける方法を知っておくに越したことはありません。

今回は前編・後編と2回に渡り、例文を交えながら単語の用法によく見られるミスをご紹介し、そうしたミスを避ける方法を説明します。


1. 発音や意味が似ている単語

単語選びでもっともよくあるミスは、意図する単語と発音が似ていても、意味が異なっている言葉を選んでしまうことです。英語ネイティブにとってはこのようなミスは単なる言い間違いに過ぎませんが、非英語ネイティブの場合は、単語を混同した結果かもしれません。

発音が似ている単語は、意味も似ている(同じではなく、あくまで「似ている」)場合がよくあるため、混同につながってしまうと考えられます。以下の例を見てみましょう:

例1:「attained(到達した)」と「obtained(得た)」

誤:The sensors attained steady state readings at high temperatures.
正:The sensors obtained steady state readings at high temperatures.(センサーは高温で定常状態の測定値を得た。)

「attain」は「到達」を意味する言葉で、状態や段階について述べるときに使います(例:the larva attains maturity [幼虫が成長を遂げる])。一方、「obtain」は、単純に「得る」という意味です(例:he obtained data from hospital records [病院の記録からデータを得た])。

例2:「principal(主な)」と「principle(原理)」

誤:The principle components of the thermochemical state were used to derive the transport equations.
正:The principal components of the thermochemical state were used to derive the transport equations.(熱化学状態の主な成分から輸送方程式を導き出した。)

「principle」は、「法則」や「原理」を意味する名詞です(例:principle of conservation of mass [質量保存の法則])。一方、「principal 」は、「主な」、「重要な」、「基本の」などの意味を持つ形容詞です(例:principal findings of the study [主な研究結果])。この2つの単語は、発音が似ているために、混同して使われることがよくあります。


2. 発音の違いによるスペルミス

文化の違いがスペルミスにつながることがあります。たとえば、私たちの編集チームは、日本人著者が共通して犯すミスがあることに気付きました(皆さんのほとんどは、すでにこのミスを認識していると思います)。それは、「l」と「r」の混同です。周知の通り、これは英語と日本語の音素の違いによるものです。

ほとんどの場合、このようなミスはスペルチェックプログラムで検出されます。しかし、文脈上は間違っている単語が、それ自体では別の意味を持つ正しい単語である場合があります。たとえば、スペルチェックでは、「collect」を「correct」、「allow」を「arrow」、「lock」を「rock」と書いてあっても、誤りを検出することができません。

このようなミスを防ぐには、細心の注意を払うしかありません。少なくとも、「r」と「l」が含まれる単語のうち、論文で頻繁に登場するものは、綴りを確認し、論文を書き終えた後に徹底的に校正を行いましょう。

誤:The poles were displaced in the direction of the applied pressure.
正:The pores were displaced in the direction of the applied pressure.(細孔は圧力が加えられた方向に変位した。)


3. 意味は似ていても含意が異なる単語

次は、発音は違っていても、意味が似ていたり重複していたりする単語の誤用について見ていきましょう。

例1:「devised(考案した)」と「developed(開発した)」

誤:We have devised a method to calculate the exergy efficiency.
正:We have developed a new method to calculate the exergy efficiency. (我々はエクセルギー効率を計算する新たな方法を開発した。)

「devise」と「develop」は、「新しいものを用意する」という意味では同じですが、前者はアイデアや計画に留まるのに対し、後者は実際に発明した製品やシステムに使うのが一般的です。

例2:「alternate(交代する)」と「alternative(代わりの)」

誤:Alternate measures were developed to reliably calculate the losses.
正:Alternative measures were developed to reliably calculate the losses.(損失を確実に計算するための代替手段が開発された。)

「alternate」と「alternative」は、どちらも「代替」や「何かの異なる選択」を意味する言葉ですが、前者は「変化の状態が一定であるもの」を示すときに使うことができます(例:「alternating current(交流電流)」)。

前編では「発音や意味が似ている単語」、「発音の違いによるスペルミス」、「意味は似ていても含意が異なる単語」についてご紹介しました。後編では、特に物理科学分野の論文で見られる単語の用法によく見られるミスをタイプをご紹介し、単語選びのミスを避けるための7つのヒントについて解説します。

 
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