エディテージ x ユサコの論文執筆ヒント集

Vol.25:能動態と受動態を効果的に使うには:前編

能動態と受動態のどちらを使うかは、好みの問題とも言え、何を強調したいかにもよります。今回は前編・後編と二回に渡って、能動態と受動態の違い、論文で能動態が好まれる理由、受動態を使うべきタイミング、論文の各セクションでどちらを使うべきかなどについて説明します。

論文執筆では、能動態と受動態のどちらを使うべきか迷うことがよくあります。「受動態の使用は避けるべき」と言う人もいれば、「両方とも自由に使うべき」と言う人もいるからです。


能動態を使えば論文はより「学術的」になるのか

科学論文では慣例的に受動態が使われてきましたが、最近では能動態を好むジャーナルや編集者が増えており、これまでの傾向に変化が見られています。このような現状で、著者はどうすべきでしょうか?慣例を捨て、受動態の使用を完全に止めるべきでしょうか?能動態を使えば、論文はより「学術的」になるのでしょうか?

これらの疑問に、論文を書こうとしている研究者たちは頭を悩ませています。結局、能動態と受動態のどちらを使うべきなのでしょうか?


能動態と受動態の違い

結論を出す前に、まずは双方の違いを理解しておく必要があるでしょう。すべての英文は、能動態か受動態のいずれかで組み立てられています。能動態は、行為者を強調する文章です。

例:The authors conducted experiments on planetary gear trains.
(著者らは遊星歯車機構に関する実験を行なった。)

この文では、行為者(著者ら)が重要であるように感じられます。一方、受動態では行動が強調され、行為者は省略することができます。

例:Experiments were conducted on planetary gear trains (by the authors).
([著者らによって]遊星歯車機構に関する実験が行われた。)

この文では、「by the authors」を省くことができます。つまり、行為者が誰であるかは、読者がすでに知っているか、あるいは知る必要がないということです。この文で重要なのは、行為そのものなのです。


非人称的で、能動態よりもフォーマルな受動態

最近まで、科学論文は受動態で書くのが当然でした。受動態を使うと非人称的なトーンになるため、より客観的でフォーマルな文章と受け止められてきたのです。科学論文ではこのような文体が適しているとされ、とくに「I」、「we」、「my」、「our」などの一人称を含む能動態はけっして使わないよう指導されてきました。

以下の2つの例文を比べると、受動態の方が非人称的で、能動態よりもフォーマルであることが分かると思います:

能動態:In this study, we numerically analyzed the thermal responses of WEDM wire electrodes using a finite element model.
(この研究で、我々は有限要素モデルを用いたWEDMワイヤー電極の熱反応に関する数値分析を行なった。)

受動態:In this study, a finite element model was used to numerically analyze the thermal responses of WEDM wire electrodes.
(この研究では、有限要素モデルを用いたWEDMワイヤー電極の熱反応に関する数値分析が行われた。)

ただし、受動態の文章は冗長で分かりにくくなる可能性があり、文章が長い場合はその傾向が顕著になります。以下の2つの例文を比べてみてください:

受動態: An increase in hardness was demonstrated by all the brittle materials under dynamic indentations compared to measurements under static hardness.
(すべての脆性材料で、静的硬度での測定よりも動的押込みによる測定において、硬度の増加が示された。)

能動態:All the brittle materials demonstrated increased hardness under dynamic indentations compared to measurements under static hardness.
(静的硬度での測定よりも動的押し込みによる測定において、すべての脆性材料で硬度が増加した。)

能動態を使った文の方が、明らかに簡潔で読みやすいと思いませんか?

多くの研究機関がこれまでの慣例に異を唱え、能動態の使用を奨励しているのは、このためです。そこにあるのは、「学術論文は読みやすく分かりやすいものであるべき」という考え方です。Nature誌をはじめとするSCI収載の総合誌や、American Journal of Botany誌などの専門誌は、投稿規定で能動態の使用を推奨しています。

このような背景もあり、最近では「In this study, we investigated…(本研究で、我々は…を調査した)」という表現がよく見られるようになっているのです。

あなたは実際に能動態と受動態のどちらを使いますか? 次回の後編では、能動態が好まれる理由、受動態を使うべきタイミング、論文の各セクションでどちらを使うべきかなどの判断を下すための基本的ガイドラインをご紹介します。

 
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