Vol.24:優れたタイトルとアブストラクト、適切なキーワード選び
研究者が論文執筆に着手するとき、大抵は論文の内容(研究方法、結果、考察のセクション)に多くの時間を費やします。
タイトルとアブストラクトはさほど思案されず、キーワードはさらに軽視され、ジャーナルの投稿システムに入力する時点で即座に仕上げられることさえしばしばあります。
皮肉なことに、タイトル・アブストラクト・キーワードの3つの要素が、出版成功の鍵を握る可能性が十分にあります。
タイトル・アブストラクト・キーワードは、なぜ大切なのか
タイトル、アブストラクト、そしてキーワードは研究発表において中心的な役割を担います。これら無しでは、ほとんどの論文が全く読まれなかったり、興味を持つ読者によって見つけられることさえないかもしれません。なぜでしょうか?
- インターネットを利用した多くの文献検索エンジンやデータベース、ジャーナルのホームページは、タイトルやアブストラクトの中にある単語やキーワードリストを使い、あなたの論文を関心のある読者たちに紹介するべきかどうか、そしていつ見せるべきかを決定します。
- 多くの場合、タイトルとアブストラクトは、ウェブ上で唯一自由に閲覧できる論文の一部です。それゆえ、読者はあなたの論文を見つけたら、まずタイトルとアブストラクトを読み、論文全部を購入すべきか、引き続き読むべきかを決定します。
- アブストラクトとはジャーナルの編集者と査読者が最初に読む論文のセクションです。忙しいジャーナル編集者は、論文を査読者に送るべきか、即座にリジェクトするべきかを決めるためにアブストラクトを利用し、一方、査読者はアブストラクトを読んであなたの論文の第一印象を形成します。
タイトルの決定
文献検索エンジンやジャーナルのホームページは、あなたの論文を興味のある読者に見せたり、分類したりするためにタイトル内の単語を使い、一方読者は、あなたの論文を読むべきかどうかを決める最初の手段としてタイトルを使います。
このため、良いタイトル(一般的な長さは単語数10~12)は論文の核心部分を的確に目立たせる説明的な用語やフレーズを使用します。
アブストラクトの執筆
アブストラクトとはマーケティングツールのように機能するべきです。
なぜ研究が実施されたのか、何が目標だったのか、それらは達成できたのか、そして主な研究成果は何だったのかを説明する、論文全体の簡潔で的確な要旨を示すことで、アブストラクトは読者が「論文の本文には何か読む価値があるか」の判断に役立てられるはずです。
アブストラクトの種類
アブストラクトは、一般的に長さが100から300の間の単語数で、descriptive(説明型)、informative(情報提供型)、structured(組み立て型)といった種類があります。
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説明型のアブストラクトは概して社会科学や人文科学に使用されます。研究方法や結果に関する特定の情報は入れないようにしましょう。
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情報提供型のアブストラクトは一般に科学で使用され、背景、目的、実験方法、結果、そして結論に関する情報を示します。
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組み立て型アブストラクトは本質的には情報提供型のアブストラクトで、一連の項目(目的、方法、結果、結論)に分割され、主に医学文献や治験の総括報告書で見られます。
効果的なタイトルを書くためのステップと用例
- 次の質問に答えてください:何に関する論文ですか? どんな技術や構想を用いましたか? 誰、もしくは何について研究しましたか? 結果はどうでしたか?
・私の論文は認知症患者の認知機能が、Xという治療法で改善するかについて調査したものである
・無作為化(ランダム)試験をした
・日本の6つの市における40人の患者を調査した
・患者の認知機能に改善が見られた - あなたの答えをキーワードのリストアップに使います。
・Xという治療法
・無作為化(ランダム)試験
・認知症
・日本の6つの市40人の患者改善された認知機能 - これらのキーワードで文章を作ります。
This study is a randomized trial that investigates whether X therapy improved cognitive function in 40 dementia patients from 6 cities in Japan; it reports improved cognitive function. (28単語)
- 無駄な単語(例:study ofやinvestigates)と繰り返しの単語を全て削除して、残りをつなげます。
Randomized trial of X therapy for improving cognitive function in 40 dementia patients from 6 cities in Japan (18単語)
- 重要ではない情報と言い換えとなっている部分を削除します。下記に2つの案をご紹介します。
Randomized trial of X therapy for improving cognitive function in 40 dementia patients (13単語)
X therapy improves cognitive function in 40 dementia patients: A randomized trial (12単語)
優れた情報提供型アブストラクト(一般に科学文献で使用される)の書き方
『論文を書き終えた後でアブストラクトを書き始めましょう』
- 主要な目的、仮説、そして結論を、序論と結論のセクションから抜き出して「どんな課題を解決しようとしているのか?」「それに取り組んだ動機は何か?」という質問にまずは答えてください。
- 次に、実験方法のセクションから鍵となる文章とフレーズを選び、「目的を達成するためにどのように取り組んだのか?」という質問に答えてください。
- 結果のセクションから主要な結果をリストアップして、あなたの研究成果を示しましょう。
- 最後に、「あなたの研究成果はどんな影響を及ぼすか?」という質問に答えてください。
- ここまでのステップで選んだ文章とフレーズを、 序論、実験方法、実験結果、結論の順番でひとつの段落にまとめます。
- この段落は独立していて、以下が含まれていないことを確認しましょう。
-論文中に無い情報 / 図や表 / 略語 / 文献レビューや参考、引用文献 - それではここで文章をつなげます。
- 段落は過去形で書き、できれば順序は目的、基本的な研究デザインや採用した手法、主要な研究成果、結論、影響とし、情報の流れがきちんとしているかを確認しましょう。
- 完成版を確認します。そのアブストラクトは論文内で示した内容と矛盾しない情報を含むこと。投稿を目指すジャーナルのガイドライン(単語数の制限、アブストラクトの種類等)に沿っていること。審査員や編集者が「この論文は不十分でありリジェクトすべきであるという結論を下す」ことになりかねないので、タイプミスはないこと。
キーワードの選択
ジャーナル、検索エンジン、引用と抽出のサービスでは、キーワードを利用して論文を分類します。従って、一連の正確なキーワードは、あなたの研究が正しい登録や、興味を持つ人達に際立って見せるために役立ちます。
これは結果としてあなたの論文の引用機会が増えるということです。 以下、どのようにしたらあなたの論文に適切なキーワードが選択できるかについてご覧ください。
- 論文を読み終えたら、本文で繰り返し使用されている用語やフレーズをリストに書き出します。
- このリストには重要な鍵となる用語やフレーズを全部と、付加的なキーフレーズをいくつか入れるようにします。
- 呼び方が異なる用語やフレーズ(例:kidneyとrenal)、薬の名称、手順等も含めます。
- 一般的な用語の省略形(例:HIV)を入れます。
- さて、ここであなたの学問分野で共通の語彙、用語のリストや標準的な索引(例:GeoRef, ERIC Thesaurus, PsycInfo, ChemWeb, BIOSIS Search Guide, MeSH Thesaurus)を参考にしましょう。そして、あなたが使用した用語がこれらのリソース内で使用されているものとマッチするようにしましょう。
- 最後に、論文を投稿する前に検索エンジンでキーワードを入力し、表示された結果があなたの論文の主題とマッチするかをチェックしましょう。
結論
効果的なタイトルの選定、アブストラクトの執筆、そして適切なキーワードの選択は骨の折れる作業です。しかし、しっかりと仕上げるために余分な時間を割く価値が十分にあるというのは否定のできない事実です。
論文が出版され、読まれ、引用される機会に、論文内のこの3つの小さな部分が最終的には大きな影響を与える可能性があるのです。