エディテージ x ユサコの論文執筆ヒント集

Vol.22:方法セクションの書き方

論文の方法セクションとは、研究の核心への工程表のようなものであり、著者が目的地に到着するまでにたどった道を読者に案内するためのものです。このセクションは、ほかの研究者が実験を再現するための情報、また一般の読者が研究を理解するのに役立つ詳細な情報で構成します。

その説明的な性質から、もっとも書きやすいセクションだと思われがちですが、実はミスが起きやすい部分でもあり、内容の高度な専門性のために、読み直しても誤りに気付かないこともあります。

この記事では、十分な情報が盛り込まれた興味深い方法セクションを書くためのヒントを紹介します。例文では主に生物医学と臨床研究の分野の論文を取り上げていますが、その他の分野の研究者にも役立つ内容となっています。


読者と方法セクションの間の壁を取り除く

まずは、方法セクションが退屈だと思われがちな問題について考えたいと思います。このセクションが退屈に思われやすいのは、試薬や機器の名称、濃度などの数値、専門用語などが羅列されているせいでしょう。以下で、読者と方法セクションとの間にある壁を取り除くための方法を紹介します。

1.説明

一般的に、方法セクションの段落や節では具体的な実験について述べます。各段落の冒頭で、その実験を選んだ論拠を述べましょう。具体的には、特定の化合物、マウス株、実験モデル、試薬濃度などを採用した理由を説明します。

臨床研究の場合は、試験対象における患者基準・除外基準の詳細をこのセクションの冒頭で述べるのが望ましいでしょう。幅広く採用されている標準的な方法を使った場合は過度な説明は不要ですが、一般的ではないアプローチを使った場合は、その研究デザインを選んだ理由を説明することで、読者の興味を瞬時に引き付けることができます。

2.視覚的表現

このセクションでは、読者に研究デザインや方法論をよりよく理解してもらうために、概略図、フローチャート、表などを活用することができます。視覚的表現によって、単調になりがちな説明にメリハリがつき、複雑な情報が飲み込みやすくなります。


方法セクションでやるべきこと、やってはいけないこと

ジャーナル編集者や査読者は、最適な方法で研究目的が達成されているかどうかを評価するために、方法セクションを精査します。ここでポジティブな評価を受けるには、実験の詳細を余すところなく盛り込む必要はないものの、実験を行う上での必須手順が適切に示されていなければなりません。

以下に、方法セクションでやるべきこと、やってはいけないことを紹介します。


<やるべきこと>

1.ガイドラインを順守する

ターゲットジャーナルの投稿規定をよく読んで、指示に従いましょう。たとえば、セクションの見出しを「Materials and Methods(材料および方法)」ではなく、「Patients and the Method(患者および方法)」にするよう規定されていたら、その通りにしなければなりません。また、ジャーナルが非盲検を望まない場合は、機関名を省略する必要があるかもしれません。また、米心理学会などによる特定の書式ガイドラインに従って方法セクションを書くよう求めるジャーナルもあります。

生物医学分野では、すべての重要情報が方法セクションに確実に含まれるように、研究タイプごとのチェックリストを活用すると便利でしょう。幅広く使われている一般的なチェックリストには次のようなものがあります:ランダム化比較試験のためのCONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials [臨床試験報告に関する統合基準])、統計群、症例管理、横断的研究のためのSTROBE(STrengthening the Reporting of OBservational studies in Epidemiology [疫学における観察研究の報告の強化])、診断精度のためのSTARD(STAndards for the Reporting of Diagnostic accuracy studies [診断精度研究の報告基準])、系統的レビューおよびメタ分析のためのPRISMA(Preferred Reporting Items for Systematic reviews and Meta‐Analyses [系統的レビューおよびメタ分析のための優先的報告事項])、症例報告のためのCARE(CAse Report)。

2.研究のストーリーが分かるようにセクションを構成する

読者が研究の流れ、展開、ニュアンスをつかめるように、行なった実験はすべて論理的に説明されていなければなりません。そのためには、時系列に沿ってそれぞれの方法を説明するとよいでしょう。たとえば臨床試験の場合、まず研究の実施日時(研究をいつ始めていつ終えたか)を説明し、次に被験者の詳細(被験者や患者の数など)、研究デザイン(前向き研究、後ろ向き研究その他)、ランダム化試験(実施した場合)、群への割り当て、治療介入、データの収集、測定、分析に用いた技術を説明するといった順で構成します。

3.実験と実験結果の順番を統一する

論文の読みやすさや流れを良くするために、それぞれの実験方法の順番と、その実験から得られた結果の順番を統一するようにしましょう。

4.小見出しをつける

セクションを実験ごとに分割すると、読みやすさが向上します。各実験の目的に小見出しを付けてもよいでしょう。また、各実験の名称を小見出しにしてもよいでしょう。

5.詳細情報の提示は慎重に

研究デザインやデータ収集の過程で検討した詳細情報を示すようにしましょう。なぜなら、この段階では些細な違いであっても、最終的に結果や解釈に大きく影響する可能性があるからです。読者は、結果の元となる測定方法の妥当性や信頼性に関する情報を知る必要があるのです。信頼性や妥当性を適切に提示できるかどうかは、研究デザインにかかっています。一般的に、先行研究からの情報は、測定方法の信頼性や妥当性を担保する補助資料となります。

使用した材料や機器(試験機や技術装置など)、刺激について述べる際は、慎重に行いましょう。アンケート調査や心理学的評価を行なった場合は、実際に使用したアンケートや評価方法、スケールの検証など、詳細を漏れなく述べる必要があります。

また、サンプルサイズの算出(必要な場合のみ)に関する記述がないという、よくあるミスをしないよう注意しましょう。サンプルサイズは実験開始前に算出するものですが、読者はこの情報から、結果変数の予想変化や、ある信頼区間内でのその変化を検出するのに必要な被験者数を見積もることができます。また、検出力の計算も、方法セクションで触れるべき重要情報です。

6.倫理委員会からの承認について述べる

該当する場合は、方法セクションの最初の方で、研究が倫理委員会や審査委員会からの承認を受けていることと、患者やその保護者から口頭/書面でインフォームドコンセントを得ていることを述べておきましょう。

7.変数を明記する

制御変数、独立変数、従属変数だけでなく、研究結果に影響を及ぼし得る剰余変数も示しましょう。たとえば、「研究方法」の書き方を学ぶチュートリアルで、片方のグループには従来の教科書が与えられ、もう一方のグループには双方向型のオンラインツールが与えられたとします。しかし、被験者の中には、すでに方法セクションの書き方に関する知識を持っている人がいるかもしれません。このような予備知識を、剰余変数として考慮する必要があります。

8.統計分析

統計分析に使用したすべての統計試験、有意水準、ソフトウェアを、このセクションで示さなければなりません。この部分の執筆に当たっては、研究チーム内の生物統計学者と相談するとよいかもしれません。専門家からの助言を受けた場合は、必ずその旨を述べましょう。最後に、使用した統計学的手法を選んだ理由を説明しましょう。たとえば、なぜ片側検定あるいは両側検定を採用したのかを説明します。


<やってはいけないこと>

1.周知の情報を詳しく書く

このセクションを簡潔に記述するために、一般的な実験や先行研究で広く採用されている実験を詳細に説明することは避け、具体的な実験に関する参考文献を引用した上で、そのプロセスに従った旨を述べましょう。ただし、研究目的を達成するために標準的なプロセスに一部変更を加えている場合は、その変更の内容と理由を説明する必要があります。

2.不要な情報を含める

実験結果と関係のない情報は不要です。たとえば、実験材料を入れるのに使った容器の色などの情報に触れる必要はありません。研究に関係のある情報や、影響を与えた情報のみを含めるようにしましょう。

3.ほかの方法に関するメリットやデメリットを述べる

採用した方法がほかよりも優れている点や、ほかの方法を採用しなかった理由に触れてしまいがちですが、それは考察セクションにとっておきましょう。方法セクションでは、採用した方法の詳細だけを述べるようにします。


以上をまとめると、理想的な論文の方法セクションとは、科学的知見が共有されていて研究の頑健性が示されている、透明性のあるものと言えるでしょう。この記事を参考にして、ぜひパーフェクトな論文を書き上げてください!

 
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