Vol.15:学術出版における剽窃行為
研究プロジェクトに着手してから、別の研究者が似たようなアイデアをすでに実践していることに気付くことは珍しくありません。調査の方法、疾病の経過、化合物の構造、何らかのプロセス等が、改良の余地がない状態ですでに明解に説明されていた場合、研究者はその説明をそのまま利用したい気持ちに駆られるかもしれません。
論文を書く際は、すべてのソースを明確かつ完全に把握することがきわめて重要です。別の人がすでに発表しているアイデア、発言、成果物をクレジットなしで利用することは、きわめて非倫理的な行いで、剽窃行為とみなされます。
剽窃の種類
- 故意の剽窃行為とみなされるケース
・先行研究のクレジットを表示せずに、アイデアを自分のものとして発表する。
・研究で利用した技術について、技術の開発者のクレジットを表示しない。
・ほかの研究者の意見やアイデアを自分のものとして発表する。
時間管理を怠ったり時間的余裕をなくしたりした研究者が、先行研究について調査する時間や自分で文章を書く労力を惜しんで、別の著者の成果物を大幅に剽窃してしまうケースが頻繁に起きています。 - 予期・意図しない剽窃になるケース(Potentialities)
参考文献を書くときに、ケアレスミスが発生することがあります。
・周知の事実(例:温暖化が気候変動の要因であることなど)を「共通の科学知識」と位置付け、その知見のクレジットを表示しない。
・文化的要因(例:特定の文化圏の若手研究者が、分野の権威である研究者の文章を言い換えることが失礼に当たると考え、元の文章をそのまま使用する。)
・言語的要因(例:非英語圏の研究者が、本来の意味を保持したまま英文を書き換えることを困難に感じ、元の文章をそのまま使用する。)
・専門性がきわめて高い論文を自分の言葉に言い換える自信がない。(このケースは学生や若手研究者の間で多く見られる。) - 自己剽窃 になるケース(Perception)
・過去に自分が発表した論文の内容を、それらの論文のクレジット表示をすることなく、新たな論文または書籍に組み込む。
・本来は1本の論文として発表するべき内容であるにも関わらず、複数の論文に分割して出版する(サラミ出版)。
剽窃の検知
査読者やジャーナル編集者がもっとも発見しやすい剽窃は、先行論文の一節が一字一句そのまま使用されているものや、ごくわずかな変更しか加えられていないものです。以下の場合、査読者は剽窃を疑います。
- 文章によって文体が大きく異なる
- 文章によって英文レベルに大きな開きがある
- 文章に見覚えがある
現在では、多くのジャーナルが剽窃検知ソフトを利用しており、ネイチャー・パブリッシング・グループ、エルゼビア、ワイリー・ブラックウェルなどの大手出版社をはじめとする250社以上の出版社は、iThenticateによる「Crosscheck」を導入しています。Crosscheckによるチェックの結果が陽性の場合、論文は自動的にリジェクトされます。
意図しない剽窃を防ぐには
アカデミック・ライティングでは、論文内で参照したすべての先行研究を正しく引用しなければなりません。このことを肝に銘じておきましょう。研究で参照したすべての技術や背景について、そのソースを包括的かつ適切に示す必要があります。
・先行論文の文章の言い換えが困難なら、文章をそのまま引用しても問題はありません。ただし、その場合は引用符で括らなければなりません。
・別の著者の言葉を言い換えたり要約したりする場合は、引用符を使う必要はありませんが、本来の意味を損なうことなく自分の言葉で言い換えられているかを入念にチェックしましょう。元の文章の言葉を数箇所変えただけでは、剽窃とみなされます。
・先行研究の内容をメモとして書き留めておく場合は、自分の言葉で書き直すようにしましょう。そのまま書き写すときは、その文章を引用符で括りましょう。そうすれば、後でメモを見返したときに、自分の言葉で書き換えたものかそのまま書き写したものかどうかを判別できます。
・別の著者の言葉を適切に言い換える自信がなくても、最大限の努力をしましょう。共著者や同僚、あるいは専門の編集サービスの力を借りて、文章を磨き上げましょう。
・参照する事実や技術が「共通の科学知識」であると思っても、元の著者のクレジットを表示しておくに越したことはありません。多分野を扱うジャーナルの読者は、必ずしもあなたの専門分野に詳しいわけではないので、その情報を歓迎してくれるでしょう。
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『不正行為への対応方針(Journal Speak)』
剽窃が見つかった際は、著者の所属先や助成元に連絡を取ります。不正が認められた場合、当ジャーナルは声明を発表し、剽窃論文に双方向のリンクを張り、剽窃について記載した上で、剽窃元の論文に言及します。剽窃論文については、PDF版の各頁に剽窃について明記します。剽窃の程度によっては、論文を正式に撤回します。
-ネイチャー※1
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剽窃を行なった研究者は、職や補助金を失う可能性があるだけでなく、学術コミュニティでの信頼を失います。博士論文に剽窃が見つかったドイツの国防相がその地位と博士号を失うという出来事※2からも明らかなように、剽窃が見つかった者は、その罪から逃れることはできません。
米国研究公正局のミゲル・ローチ(Miguel Roig)氏の論文※3では、学術界における剽窃の事例が紹介されています。その一部を紹介します。
- 一流病院に務めていた生化学者が、米国科学アカデミーの報告書の一節を著書で使用していた責任を問われ、辞職した。
- ある大学の学長が、大学の集会で行なったスピーチの一部で引用元を示さなかったことを非難され、辞職に追い込まれた。
- ある心理学者の博士論文の一部が剽窃であることを発見した大学は、その学者の博士号を撤回した。
まとめ
他人の成果物、文章、アイデアを自分のものとして発表することは、きわめて非倫理的な行為です。剽窃を行なった研究者には、少なくとも、ずさんで不注意な人物であるというレッテルが貼られます。最悪の場合、科学的不正行為に手を染めた研究者としての汚名を一生背負うことになります。
引用を行う際は、ディテールに細心の注意を払い、文章を適切に言い換え、ソースを確実に示すことで、剽窃を追及されるリスクから身を守りましょう。
参考資料
※1. Nature. Plagiarism and fabrication. Editorial policies: Publication ethics. Last accessed on October 19, 2011. Available from: http://www.nature.com/authors/policies/plagiarism.html
※2. Boston W. Germany: Plagiarism Claims Take Down Guttenberg. Time World. March 3, 2011.
※3. Roig M (2006). Avoiding plagiarism, self-plagiarism, and other questionable writing practices: A guide to ethical writing. Available at: http://facpub.stjohns.edu/~roigm/plagiarism/. Last accessed: December 28, 2011.