Vol.14:利益相反があるかどうかを判断するための"6つのP"
科学の要は、客観的かつ公平なことです。研究者がある研究から特定の結果を得れば、経済的に潤い、キャリアも獲得できるとしたらどうでしょう。
これ自体は容認できる可能性がありますが、研究者が潜在的利益を明かさない場合、そうした判断が研究デザイン、研究の実施、研究知見の発表の評判を落とすのではと怪しむ人もいるかもしれません。
この状況を「利益相反 "Conflicts of interest" (COI)」と言います。
利益相反とは?
研究者の研究に影響を与える潜在的バイアスがある場合は常に、利益相反が生じます。
利益相反には、金銭上の利益とそうでない利益とが含まれます。たとえば、査読者が、自身の研究の地位を下げるような研究を評価する場合を考えてみましょう。このことは、その研究自体が独自性をもち、頑健であったとしても、査読者が不採択を勧める可能性にもつながります。
金銭的利益の原因となる利益相反は、著者が一番多く直面し、開示しなければならないものです。
たとえば、資金提供源、研究から金銭的利益を得る会社の株の所有、研究の恩恵を受ける会社からもらう顧問料や給料などが挙げられます。研究知見の発表に関するレビューでは、研究への財政援助が出版バイアスの一因になっていることが明らかになっています。これは、資金提供者がデータを所有していることが多く、データが操作・秘匿されやすいためです。
世界医学雑誌編集者協会(World Association of Medical Editors (WAME) )は、さまざまな状況で生じうる利益相反を非常にうまく表現 しています。
6つのP
学問の道にいれば利益相反は避けられないものであり、潜在的、あるいは事実上の対立を明らかにするのが研究者の責務です。Integrity Coordinating Groupがまとめた、利益相反があるかどうか判断するための”6つのP“で知られるリストを紹介します。
1.公務(Public duty) 対 私益(private interest)
研究者か研究資金提供者が、公共の利益や公共の福祉に反する、あるいは反すると思われる個人的利益または金銭的利益を有するか?
2. 潜在的可能性(Potentialities)
研究者、研究者の所属機関、研究資金提供者にとっての金銭的利益、あるいはその他の知的利益で、自分の研究やデータを疑いかねないものがあるだろうか?
3. 認識(Perception)
研究概念、研究指導、研究デザイン、研究の実施、論文執筆に対する自分や資金提供者の関与は、他者からはどのように思われるだろうか?研究デザイン、サンプルの選択、データ報告、データ変換、論文の準備における何らかのバイアスが、研究者、所属機関、資金提供者に関連する利益相反としてみなされるのではないだろうか?研究者、所属機関、資金提供者に関わる何らかのリスクがあるか?
4. つりあい(Proportionality)
研究に関するすべての判断への、研究者や資金提供者の関与は、公正で妥当なものにみえるか?
5. 冷静さ(Presence of mind)
利益相反の開示を無視する、あるいは開示しなかった場合、どんな事態になるだろうか?エディター、査読者、読者から研究者や資金提供者の関与を問われた場合、妥当な回答を出すことができるだろうか?
6. 約束(Promises)
研究者、所属機関、資金提供者は、研究の実施・発表に関し何か約束をしたことがあるか?約束した行為/決定から、得るものや失うものがある立場か?
ほとんどすべての科学ジャーナル、専門的でないジャーナルで、著者は、研究に関する潜在的あるいは事実上の利益相反を開示するよう求められています。JAMAのように、金銭的利益相反開示の宣言を署名付きで提出させるジャーナルもあります。BMC Cancerなど、投稿規程において、論文内に利益相反に関する節を別に設けるとともに、カバーレターに詳細を書くよう、強く求めているジャーナルもあります。
なぜ、著者は利益相反を開示しなければならないのか
利益相反を開示する際は、研究者は関係のある金銭的利益(助成金、資金援助、企業からの資金提供; その他、将来の金銭的利益を表す出願・申請中の特許のような知的利益)について、詳細な情報を提出するよう求められています。
また、研究計画と研究実施、データの収集・分析・解釈、論文の草稿執筆・再検討・最終承認における、資金提供機関・提供者の役割を明らかにするよう、求められています。
著者がジャーナルの中で利益相反について伝えることは非常に大切です。論文を掲載する時点で、ジャーナルが常に利益相反を公開しているとは限りません。しかし、研究内容や利益相反があるのではないかと疑いの目を向けたりする人がいれば、ジャーナルは著者による利益相反の開示を掲載し、著者があらかじめジャーナルに情報を提供していると言及することで、著者の行為がさほど疑わしくないように見えます。けれども、著者がジャーナルに情報を伝えておらず、実際に利益相反があることがわかった場合、論文の撤回や著者の所属機関による調査が行われるといった、深刻な事態になる可能性があります。
ジャーナルは普通、自分たちで利益相反の問題を監視したりはしません。むしろ、研究者の所属機関(大学や研究機関)が、教職員に向けに利益相反方針を作成し、実行し、監視しています。ですから、著者はたいていの場合、研究を完了し論文を投稿する前に、利益相反にあたる状況を避けることができます。疑わしい場合は、ジャーナルに投稿する前に所属機関に相談するよう勧められています。
結論
バイアスがかかっている可能性が開示されると、読者は事情を把握し、研究をその真価によって判断するでしょう。反対に、関係する金銭的/知的利益が開示されないと、社会的信頼が損なわれ、その後情報が開示されも、研究者と、研究を掲載したジャーナルの信頼性は大きな打撃を受けるかもしれません。